Kyoto Live

京都賞の理念


 


 


私は昭和34年(1959年)に京セラ株式会社を設立し、セラミックの技術 者としてエレクトロニクス・セラミックス、エンジニアリング・セラミックス、 ストラクチャ−・セラミックス等、さまざまな新しいセラミック材料の開発に努 力し、ニュ−・セラミックス、ファイン・セラミックスの時代といわれる今日を 築くことに大いなる貢献を果たしてきたと思っております。創立25周年、4分 の1世紀を経過した今日、我々は今までの昼夜を分かたぬ、誰にも負けない努力 の成果と、同時に神の導きがあって、年間売上額2,300億円、税引前利益5 30億円という企業にまで発展をして来ました。
 この時にあたり、かねてから私の人生観である「人のため、世のために役立 つことをなすことが、人間として最高の行為である」という理念にもとづき、私 が現在所有している京セラ株式会社の株式および現金計約200億円相当を醵出 し、人類の科学の発展、文明の発展、又精神的な深化、高揚の面に著しく貢献し た人々に対し、京都賞を贈呈し、人類の進歩、発展にいささかでも貢献したいと 思い、ここに京都賞の創設をいたしました。この京都賞を受賞される資格者は、 京セラの我々が今までにやってきたと同じように、謙虚にして人一倍の努力を払 い、道を究める努力をし、己を知り、そのため偉大なものに対し敬虔なる心を持 ちあわせる人でなければなりません。
 また、その業績は世界の文明、科学、精神的深化のために、大いなる貢献を した人でなければなりません。さらに、自分の努力をしたその結果が真に人類を 幸せにすることを願っている人でなければなりません。
 この京都賞を創設するについてはふたつの大きな理由があります。
 ひとつは冒頭に述べた私自身の人生観にありますように、この世に於ける人 類の最高の行為は「人のため世のために尽す」ということ、今日まで私をはぐく んでくれた人類および世界のために、お返しをしたいということであります。
 ふたつには、人知れず努力をしている研究者にとって心から喜べる賞が世の 中にあまりに少ないことであります。少なくとも人一倍努力をし、人類の科学、 文明、精神的深化の面で著しく貢献をした人を顕彰し、今後その面での益々の発 展の刺激になってくれればという気持からであります。今後人類の未来は、科学 の発展と人類の精神的深化のバランスがとれて、初めて安定したものになるであ ろうと確信いたしております。現在科学文明は益々発展をとげておりますが、人 類の精神面における研究は科学に対して大きく遅れをとっております。
 物事には陰と陽、暗と明というように、プラスとマイナスという必ず二面的 な世界が拡がっているはずであります。
 この両面がバランス良く解明され、発展してこそト−タルな安定が果せるは ずで、一方の面だけでの発展、肥大化は、宇宙のバランスをくずし、人類の不幸 につながっていくと思っております。願わくは、この京都賞がこの両面の今後の 発展に大きく寄与し、新しい哲学的パラダイムの構築を促進するいささかの刺激 剤となれば、この上なく幸せに思います。

1984年4月12日

 



前のページに戻る