3. パラメーターリファレンス
3.8. EFFECT
アンプリファイヤーからの入力にエフェクト処理を行い、ホストアプリケーションに出力します。
エフェクトセクションのブロックダイアグラムを次に示します。
これは一般的にステレオピンポンディレイ(エコー)と呼ばれる構成ですが、ローカット/ハイカットフィルターとオーバードライブが加えられており色々な使い方ができます。具体的には次に示すような使用法があります。
本章の後半で実際の設定例を示します。
エフェクトセクションは他のセクションよりずっと効率的です。他のセクションは発声しているボイス数分の処理を全て個別に行いますが、エフェクトセクションは出来上がった音を1チャンネルにミックスダウンした後で処理を行うため、ステレオ2チャンネル分しか処理を行いません。そのためフル活用してもCPUの使用量はわずかです。
3.8.1. Mix
エフェクトを通った音(ウェット音)と通らない音(ドライ音)のミックス割合を設定します。
0%(すべてドライ音)〜100%(すべてウェット音)の間で設定します。
このパラメーターはエフェクトのON/OFFスイッチを兼ねています。Mixを0%にするとエフェクトがOFFになり、エフェクト処理全体がスキップされます。
3.8.2. Time
ディレイタイムを設定します。
3.8.3. Diffusion
左右のディレイタイムの差を設定します。
左右のディレイタイムに違いを与えることによりエフェクト音に左右の広がりが生じます。これにさらにモジュレーションとフィードバックを加えることにより音を拡散させる効果が得られます。
3.8.4. Feedback
フィードバックの割合を設定します。
フィードバックは+/-両方向に設定できます。フィードバックを-方向に設定するとフィードバック信号がエフェクト信号に逆相で加えられます。
3.8.5. Drive
オーバードライブの割合を設定します。
3.8.6. LowCut
ローカットフィルタの周波数を設定します。
3.8.7. HighCut
ハイカットフィルタの周波数を設定します。
3.8.8. Speed
ディレイタイムのモジュレーション速度を設定します。
ディレイタイムに変調を加えるサイン波の周波数を設定します。
3.8.9. Depth
ディレイタイムのモジュレーションの大きさを設定します。
モジュレーションを加えるとディレイタイムの変化によりエフェクト音の音程が変化します。0(変化なし)〜100%(1音)の間で設定します。
設定例:コーラス
コーラスエフェクトの設定例を下表に示します。ディレイタイムは短めに設定し、Depthを少し加えてディレイタイムを変化させるとディレイの再生速度が変わり音程が変化します。これを原音とミックスすることによりコーラス効果が得られます。
Mix | 65% | ||
---|---|---|---|
Time | 0.02sec | Diffusion | 0% |
Feedback | 0% | Drive | 1% |
LowCut | 20Hz | HighCut | 22000Hz |
Speed | 0.2Hz | Depth | 10% |
設定例:フランジャー
フランジャーはコーラスを少しだけ変化させたものですが、その効果は大きく異なります。ディレイタイムをコーラスよりもっと短くするとディレイ音と元の音が干渉します。さらにフィードバックを用いて音をループさせることにより音の干渉が強調され独特の効果が生まれます。下表の設定例ではディレイタイムを1/10にしてフィードバックを加えたこと以外はコーラスとほぼ同じですが全く違う効果が得られます。フィードバックを−方向に加える方法もあり、+の場合と少し異なる効果が得られます。
Mix | 50% | ||
---|---|---|---|
Time | 0.002sec | Diffusion | 0% |
Feedback | +80% | Drive | 1% |
LowCut | 20Hz | HighCut | 22000Hz |
Speed | 0.2Hz | Depth | 10% |
設定例:リバーブ
リバーブ(残響)はその名の通り部屋やホールなどの残響をシミュレートするもので、歴史が古くまた奥が深いエフェクトです。設定例は次の通りです。ディレイタイムは部屋の大きさに対応します。音速は秒速330〜340m(気温によって多少変化します)ですから0.1秒では約34mになり、往復も考えると17mの部屋をシミュレートしていることになります。壁の反射率はフィードバック量で設定します。反射は一様ではなく徐々に拡散していきますが、これはDiffusionを少し加えて左右のディレイタイムをずらすことにより表現します。音の一部は壁に吸収されますが、高音と低音では反射率が異なり通常は高音ほど吸収されやすい性質があります。これはハイカットフィルターで高音成分を少し取り除くことによりシミュレートします。
Mix | 30% | ||
---|---|---|---|
Time | 0.1sec | Diffusion | 10% |
Feedback | +80% | Drive | 1% |
LowCut | 100Hz | HighCut | 2000Hz |
Speed | 0.2Hz | Depth | 0% |
ただしリバーブは非常に奥の深い効果ですから、このエフェクトだけで(例えばコンサートホールの)アンビエンスを十分に再現することは困難です。より本格的なリバーブが欲しい場合はVSTホストアプリケーション上で他のリバーブエフェクトを組み合わせて使用することをお勧めします。
設定例:モジュレーションディレイ
次に華やかな空間系エフェクトの例を紹介します。リバーブが自然の残響をシミュレートするのに対して、こちらは音を人工的に拡げる効果と考えると分かりやすいでしょう。ディレイタイムを長めにしてフィードバックを加えると音がエコーのように反復しながら減衰していきます。DiffusionとDepthを少し加えることによりエコー音がだんだんと拡散する効果が得られます。
Mix | 40% | ||
---|---|---|---|
Time | 0.35sec | Diffusion | 25% |
Feedback | +80% | Drive | 100% |
LowCut | 100Hz | HighCut | 5000Hz |
Speed | 0.5Hz | Depth | 10% |
設定例:オーバードライブ
最後にオーバードライブの設定例を紹介します。まずMixは100%にしてしまい、後はDriveを上げていけば音は徐々に歪んでいきます。ただしExcitonのエフェクトではそれ以上のことができます。
設定の一例を下表に示します。ディレイタイムを短くしてフィードバックを少し加えているところがポイントで、これにより歪んだ音がディレイループ内でフィードバックして音に変化が加わります。音色は両方のフィルターで調整します。フィードバックをもっと上げていくとちょうどギターアンプにピックアップを近づけたのと同じような状態になり音が歪みながら発振します。さらにこの状態でディレイタイムを変えると発振周波数が変化します。いろいろ面白いことができますのでぜひ自分で試してみてください。
Mix | 100% | ||
---|---|---|---|
Time | 0.005sec | Diffusion | 0% |
Feedback | +8% | Drive | 800% |
LowCut | 200Hz | HighCut | 4000Hz |
Speed | 1Hz | Depth | 0% |