'The Deep' in Osaka 「Walter & まさし きたお合同企画」

「いちびっとたらアカンわな -2-」


やっとのことで俺は榊から解放された。全くあのオッサンとおったら疲れてしゃあない。 あれだけいつも元気やねんから、さしもの俺も負けそうなモンや。確かに俺も元気が良いことを 売りモンにしてはおる。しかし榊の場合は俺から言わせれば下品や
いまだに日本の社会は個性への締め付けは厳しい。そういうことを榊は知ってか知らんでか 俺はわからんが、サラリーマンでおる以上はそういう事で目立っては損や。

俺は仕事場に戻ってきた。美穂はいつの間にか帰ってしまったらしい。 あの笑顔をもう一度見てから仕事に戻りたかったんやが、しゃあない。美穂は俺の女やないし、 100%美穂の行動を、俺の自由に出来る訳がない。それでも俺には美穂なら誘えば付き合う様な気がして おった。なんでか?。俺には、いや、他の誰もが分かってなくても、俺にだけは分かることや。 いつも明るく元気で仕事バリバリという感じの俺や。今までにも何度か美穂の目から、 「あこがれ」のようなモンを感じたこともある。せやからこれは俺のひそかな自信なんや。

俺は机の前の書類に目を通そうとした。しかし俺の頭の中から榊の話が離れん。確かに榊の言うとおり、 若い女を手っ取り早くゲットするには風俗が一番や。俺も実際に何回か行ったこともある。 楽しいのは間違いない。しかし、そういうことを珠江には知られとうないし、ましてや美穂に知られる 言うのは、もってのほかや。
美穂にとっての俺は、すてきなムードも持合わせたデートで、いつしか 夜景を見ながら抱かれるような、そんな男であった方がいいに決まっている。

珠江に知られるのも俺にとっては良い訳がない。付き合い始めた頃、俺は珠江の事をみんなに紹介している。 俺は珠江のような女と好きヤンの仲になれたことが、うれしかったんや。自慢やった訳や。 勿論今でも仲良くはしているが、ヒビが入ったとみんなに知れるのはみっともない。まして あれほどまでして口説いた珠江や。俺が浮気をしたと判ったらどんな風に言うか解らん。 俺には珠江に泣き崩れられるんか?それとも「結局男はみんなこうなんやね」と、背中を 向けられるのか。そのどちらかやろう。そのどっちも 考えるのは嫌やが、俺には背を向けられる方が怖い。 女の評判は思うより伝播は早い。おまけに尾ひれがつくのが常や。珠江の口から何という噂になって 俺のことが言われるんか。いや、珠江が言わんでも他の女がどんな風に俺のことを言うのか。
そんなことは考えとうもないことやが、怖いことないと言えば嘘になる。

「おい、三田くん。今日は早よ帰れよ。・・・いっつも残業ばっかりやねんから たまには早よ、帰りや!」
「すんません、課長!これだけやったら帰りますんで。大丈夫です。」

つらつらと色々なことを考えながらでも、しっかりと仕事は進めている。そんでのうても榊みたいな 営業の奴が昼間は何人も来よるんやから、仕事がはかどるっちゅうわけにはいかん。残業になるのは 仕方ないこっちゃねんけど、実は俺本人はそう嫌でもない。 昼間は来客で忙しい事をアピールできるが、実際は今日みたいに榊の相手をしていれば、そんなに しんどい事でもない。いや、かえって楽しい。趣味で仕事をしているようなモンや。 で、遅くなって残業になるんやが、そうなると残業手当がつく。手取りが増える。そして 忙しい中頑張っておるっちゅうイメージもつけれる。全てはうまいこと行くモンや。

「三田さん、俺、もう帰るわ!」
「あ、峰ちゃん!俺ももう帰るから!」

知らん間に俺一人残るようになっておった。俺はいそいそと自分の革製のかばんを取り出した。 いつまでも残っていても仕方ない。誰もいない中で仕事するほどアホらしいこともない。 俺は左のそでをまくって時計を覗いてみた。思ったよりも 時間はそう遅くはなっていない。次の急行に乗れば待ち合わせのええダイヤや。
それにはちょっと走れば間に合うことを、俺の机の上の時刻表が 教えていた。

(続く)


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