いつものように、晩飯を喰った後、寝転んでテレビを見ているWalter。出来ればこのまま 満腹感の中に眠りについてしまいたいと思っていた。なにしろ最近は寝るのが遅い。 時計はまだ8:30を指している。ああ、だるいのー。どないしたろか。 と、まどろみかけた時、ひたすらけたたましく電話が鳴った。この時間に電話してくるのは ほぼ間違いなくアシスタントエディターのJIJIや! W「はい、...おお、やっぱりオッサンやったか。」 J「そうじゃ、わしじゃ。このボケ!」 W「どないやっちゅうんじゃ、えらいつっかかるやないけ?」 J「どないしたもこないしたもあるかい!。とにかく用件じゃ。」 W「なんじゃい?」 J「オッサン、レコードプレーヤー、持ってへんか?」 W「いや、欲しいとは思うてるんやが持っとらん。」 J「持ってへんのか!.....役タタズが!」 W「なんやねん!のっけからめちゃくちゃなことばっかり言いよって!」 J「めちゃくちゃでもへったくれでも何でもええわい!えらいモンが見つかったんじゃ!」 W「何じゃ?そないにびっくりするようなもんか?」 J「そうじゃ。わしはプレーヤー持ってへんからどないしようもあらへん。 『ヨーコぶるーすばんど』のLP、見つけたんじゃ!」 W「そ、それホンマか?!」 J「うそやないから興奮しとるんじゃ!。とにかく早よウチ、来んかい!」 W「わかった!。すぐ行く。皆まで言うな!企画案は車の中で考えるからな。」
実はこの'The Deep' in Osakaが立ち上がる前、WalterがアシスタントエディタにこのJIJI を選んだのには、JIJIがこのヨーコぶるーすばんどのことをWalterに教えたことも 理由であったのだ。
話をもとに戻す。JIJIは'The Deep' in Osakaのスタッフになる以前から、この ヨーコぶるーすばんどのLPを探していたらしい。というのも当のヨーコは現在 アメリカに在住しており、ブルースシンガーの名誉ともなる賞すら獲得しておると いうことであったので、そのデビューアルバムがどうしても欲しかったのや。JIJIは中学の時分に
「♪オッサン何するんや、ウチのどこさわってるんや!」
と歌うヨーコを聞いたことがあり、今の今でも記憶にあるという。そしてそれが とんでもないほど大阪フレーバーに満ち溢れていたことも。 発見したと同時に電話をかけてきてWalterに喰ってかかったのも、Walterは十分理解できた。 何よりも二人ともレコードプレーヤーを持っていないのやから、その音を聴くすべがない。 JIJIにとっては、ジャケットを眺めるだけの「蛇の生殺し」状態を耐えるためには Walterと夢中で企画を組み上げていくこと以外、方法はなかったのや。実際我々2人は 矢継ぎ早に企画を組み上げ、Walterは早速起稿に、JIJIはジャケットの縮小カラーコピーと 追加情報の発掘へとかかった。そして、忘れてはならないのはJIJIが大枚15,000円を はたいて、早速その翌日レコードプレーヤーを購入したことやった。
さて次の2曲目。
始まると同時に我々2人ともがブッ倒れた!。
これは、あのV.S.O.P.(Very Special One Patarn)Bluesの雄=
Elmore James大先生の
ワンパターンイントロと全く同じやないか!
もうここまで聴いていて、我々はのめり込んでしまった。
圧倒的な大阪弁。素晴らしいボーカルのパワーと歌唱力。基本に忠実な
ブルースフィーリング。そのどれもが我々二人をがっちり掴んで離さなかった。
右の画像がLPについていた帯や。その唄の題名を見ただけでもズッポリと
Deepな大阪の世界に入っていくことが理解できよう。先述した上田正樹&有山淳司の
LPは、確かに大阪フィーリングたっぷりやが、生粋のブルースとは言いかねる。
それに引き換えこのヨーコぶるーすばんどは、正当にブルースや。(勿論
ドロドロのブルースではなく、多少ジャズがかってはいるが)その偉大とも言える遺産の
一つが'The Deep' in OsakaのスタッフであるJIJIのもとに落ちたのは、何かを暗示している
としか思えんのや。
JIJIはこのLPを、大阪駅前ビルの中古レコード店で発見した。JIJIが大阪駅前ビルに
行くような用事が出来たのは、つい最近のことである。'The Deep' in Osakaのアシスタントエディタ
となり、これといってネタ探しに躍起になっておった訳でもないところに、
特に大きな努力、犠牲を払わずにこのような偉大な遺産が転げ落ちてくる。
Walterはこのことが'The Deep' in Osakaの強運を暗示していると考え、これから先の
展開に大きな希望を持つのであった。
Written by Walter