Walterはしんとも音のしないような夜更けに、html文書を打っておった。
読者からの要望にこたえる。自分が出来得る限りのものを視聴者に届けたい。そういう
純粋な気持ちに浸る。苦しいがかけがえのない、熱中できる時や。
「メールが届いています」
Walterの貧弱なパソコンがそう言った。誰からかと思えば、知り合いのホームページマスター
からや。この人(Brainsのページ参照)には色々な情報をもらっておる。
Walterの信頼する協力者の一人や。
「なにかいな?・・・・な、なんやと!」
メールにはこうあった。
「なにげなく新聞の大阪地裁の公示を見ていて驚きました。あの大月楽器店が 破産宣告を受けたということです」
Walterは当然驚いた。この人の言うことに嘘はない。早速メールの返事を書き、その公示を 送付してくれるように依頼する。
まもなく、FAXが到着した。目を凝らしてみてみる。やはり本当に載っておる。
平成8年(フ)第3384号 大阪市北区曾根崎2丁目6番2号 破産者 株式会社大月楽器店 代表者代表取締役 大槻太郎あの大月楽器が・・・・Walterは早速JIJIに連絡を取り、大阪へ急行した。
J「どないじゃ?」
W「やっぱりほんまやな。公示が貼ってあるわ。」
J「・・・ほんまや。・・・・しかしなんでや?」
W「うん、・・・・まあ、せやな」
J「・・・・・」
W「寂しなって・・・・」
我々はしばらくの間、店の前に立ち尽くしておった。
通りがかる人の中にはそれに気づき、しばし足を止める人もいる。しかしそれも
ごくわずかや。
貼ってある「財産保全の告知」
「破産告知」そして「お客様への告知」が余りにも寂しい。
公示の日付を見ると、破産宣告受理の為の財産保全措置が12/2、破産宣告が12/4に なっておる。と言うことは、おそらく11/末日に、2回目の不渡手形を出して銀行取引停止と なったのであろう。
J「裏口があったやろ、回ってみよ」
W「お、おお・・・・」
裏口の方にはお初天神がある。が、この辺りは表通りに比べて人通りが少ない。
目の前に交番があった。Walterはちょっと取材っ気を起こして入ってみる。
W「こんにちわ・・・」
P「はい、・・・なにか?」
答える初老の警官の声に、わずかながら蓄膿のけがあることをWalterは感じた。
W「あの、ここの大月楽器って倒産してしもたんですか?」
P「ああ、そうらしいですねん。」
W「なんでなんでしょ、なんか聞いてはりまっか?」
P「いやー、特に何もねー」
W「はあ、・・・・・なんか言うてきはる人、おります?」
P「いやー、あそこに張り紙してあるだけで特にはねー」
W「・・・・・・・・はあ、・・・・どうもすんまへん」
P「・・・・・・」
J「なんにもないってか?」
W「・・・ああ」
J「・・・裏口もほれ、このとおりや」
W「・・・・・・」
J「ここにも公示貼られて・・・はあ・・・」
W「・・・もうええ。帰ろや。」
J「お、おお。・・・・・写真はとったんか?」
W「これ以上撮るモン、ないわ」
J「そうか・・・・・」
W「ここなあ、・・・・・思い入れあったんじゃ」
J「ふむ・・・・・まあ、老舗やからな。」
W「老舗・・・・・しにせなあ・・・」
J「・・・・・・」
また一つ、大阪の心が消えていく
Walterはそう考えると足取りが重くなってゆく。いつしか頭を垂れ、昇っている歩道橋の
階段は、JIJIより一つ遅れになっておる。
J「他人の不幸は密の味っちゅうけれどもな、これは笑えんわ」
W「そういうこっちゃ」
Walterは思い出していた。初めてBluesという芸術を知り、狂い始めたあの頃、なんとかレコードを探そう
として、たどり着いていきなり5枚ものLPを買った。それが大月楽器店やった。
大月楽器がなければ、ひょっとしたらWalterはBluesを知り得なかったかも知れん。
そら、大阪にはナカイ楽器もサカネ楽器もある。が、大月楽器はまさにWalterの出発点で
あったのや。自分の名前のWalterも、失恋のドン底でめぐりあったLittle Walterにあやかって
つけた。そしてそのLittle Walterとも、この大月楽器店で顔をあわしたのやった。
ジャケットのLittle Walterは、額の傷を見せつけて、俺を迎えてくれたな。
そんな昔のいい想い出も、ここの店がなくなれば薄れていくやろう。Walterは
初めて書きたくない原稿を書くことに、悲しさを感じていた。
目の前の人混みは、皆が争って宝くじを買っておる。
ありがとう。大月楽器店。俺は忘れへんで!
Written by Walter