アースや漏電遮断器は不要なのか

7/15号のQ&Aで100V用商用電源ではアースの必要がないと書いてありましたが,本当に大丈夫でしょうか。


結論からいうと「アースは必要」です。自作PCの場合,ケースは金属製がほとんどです。これは電源回路が漏電した場合,漏電電流がそのままケースに流れてしまうことを意味します。もしケースがキャスター付きであったり乾燥した板の上に置いてあった場合,人がケースに触った瞬間,漏電電流がほかに流れることができず,すべて人体を通過して流れてしまいます。アースを取ってあれば,漏電電流はほとんどがアース線に流れていくので,人体に流れる電流は劇的に少なくなります。この電流は流れ続けることはなく,ELB(漏電遮断器)が漏電発生を検知し,漏電開始から30ミリ秒以下で電気を遮断します。ELBがあれば人体が濡れていたり,床がコンクリートでもなければ死ぬことはないでしょう。ELBの使い方についてはhttp://www.haseko.co.jp/z-sf-15.htmも参考になります。
 しかし,ELBがあるといって楽観はできません。ELBは現在,国内ではほぼ100%の家庭に設置されていますが,電力会社の調査で,故障したままのELBがかなりあることが指摘されています。この機会に,ELBに付いているテストボタンでチェックしてみましょう。
 このような危険性がありながらも,一般家庭でパソコンにアースを取っているケースはごく少数でしょう。これは法的に強制されていないということもありますが,家庭内で金属の外装を使った家電品がほとんど存在しないことから,アース端子の付いたコンセントが少ないこともこの状況に拍車をかけています。
 説明書に「アースを取るように」とでも書いてあればまだしも,そもそもパーツショップで取扱説明書付きの電源やケースなどにほとんどお目にかかったことがありません。危険な状況ながら事故の話をあまり聞かないのは,PCは濡れた場所で使われることがほとんどなく,電源故障も少ないうえ,製品寿命が極端に短く,故障する前に捨てられてしまうか,使われなくなるという実態が「たまたま」漏電を防ぐ方向に働いているのです。
 また,アルミサッシをアースに使う話も聞きますが,これは危険です。「絶対使ってはいけない」と考えるべきでしょう。大きな鉄骨を使った家では,抵抗値の非常に低い鉄骨を利用してアースの代わりにする場合もありますが,普通の住宅やマンション,アパートのサッシをアースにしてしまうと,漏電した電流がほかの家のベランダや水道,手すりなどに流れたり,ひどいときにはこの電流が接触抵抗の高い部分で発熱して火災になってしまうこともあります。電気火災の原因のほとんどはこういったメカニズムで起きているのです。
 間違ったアース工事をすると,このような大きな事故につながる可能性がありますから,アースを取るのであれば電気工事店に頼んで確実に行うべきです。
 参考までに感電のメカニズムとELBの働きについて下図で説明しましょう。これは漏電したときの状態を表しています。この状態でアース線と人体に流れる電流を比較してみます。アース線の電流をXアンペア(以下A),人体を流れる電流をYAとしましょう。

漏電電流=100V/(100Ω+900Ω)=0.1A
X=0.1×900Ω/(100Ω+900Ω)=0.09A
Y=0.1×100Ω/(100Ω+900Ω)=0.01A

 人体の抵抗値は実際にはもっと大きいのですが,手が濡れていた場合を想定し低めとしました。しかし,アースが法定どおり100オーム取れているので生命の危険はかなり低くなっています。では,このアースがなかったらどうなるのでしょう。再度計算すると,漏電電流は同じですから以下のようになります。

Y=100V/900Ω=0.9A

 アースがないと,こうも変わってくるのです。なんと,アースがあった場合の90倍もの電流が人体を通過してしまい,非常に危険な状況になってしまいます。人間は約1Aの電流が流れたら即死してしまうのです。
 アースはとても重要です。一度真剣に考えてみるだけの価値はあるでしょう。
(荒井正巳)


漏電によって感電してしまったときの電流の流れ