DVDのデコーダには,ハードウェアによるものとソフトウェアによるものがありますが,それぞれの長所と短所を教えてください。
それでは以下にそれぞれの特徴をまとめてみましょう。
*ハードウェア
ハードウェアDVDデコーダカード(以下DVDカード)はその名のとおり,カードに搭載されたデコーダチップがDVDビデオのMPEG2映像を伸張して表示します。DVDカードにはアナログオーバーレイとデジタルオーバーレイの2種類があり,それぞれ画質の面で若干の違いがあります。
アナログオーバーレイは,ビデオカードのアナログRGBの映像とDVDカードから出力されるMPEG2映像をアナログ次元で合成するため,PCの画像とDVDの画像の双方に画質の劣化が生じます。しかし,合成処理がPCシステムの外で行われるため,PCIバスを占有したりビデオカードの処理を阻害せず,ほとんどのPCで安定動作するという利点があります。
デジタルオーバーレイは,DVDカードが伸張したMPEG2のデジタル映像をビデオカード側のフレームバッファに転送して,ビデオカードがその映像を表示するため,PCの画質,DVDの画質の双方が高品位に保たれます。しかし,DVDカードが映像を転送するときにPCIバスを占有するのと,ビデオカードによってはこの転送に対応できないものがあるため,相性問題が起こりやすいという欠点があります。
とはいえ,家庭用テレビにS端子経由で接続する場合にはどちらの方式でも画質の差はあまりないといっていいでしょう。
また,音声出力に関しては,どちらのタイプでもDolbyDigital(AC-3)の出力に対応したS/P DIF端子が付いているので,市販のAVアンプやオーディオプロセッサに接続すれば5.1チャネルの6スピーカーシステムによるサラウンドサウンドが楽しめます。'99年4月初旬現在入手可能なDVDカードでデジタルオーバーレイ方式に対応している製品は,ウエップシステム(TEL03-3377-3511)の「CINEMASTER DVDアップグレードキット」(オープンプライス。推定小売価格4万3000円程度)しかないようです。
*ソフトウェア
さて,最近台頭してきたソフトウェアDVDプレイヤー(以下ソフトDVD)は,CPUの演算能力を駆使してDVDビデオのMPE
G2映像を伸張,再生します。ソフトによっては,ビデオカード側にMPEG2再生支援機能があれば,これを併用するものもあります。
いずれにせよ,DVDビデオの映像は,ソフトウェア的に処理されてビデオカードに出力されることになり,画質はそのソフトDVDのデコードアルゴリズムの出来,そしてCPUの性能に左右されます。家庭用テレビに出力する場合は,ビデオカード側にその機能がないと行えません。
十分なCPU性能を持ち,デコードアルゴリズムも優秀であれば,ソフトDVDの映像はDVDカードを使って得た映像と同等の画質といえるところまできています。欠点を挙げるとすれば,音声出力に関してです。製品はいくつかありますが,いずれもまだDolbyDigital(AC-3)の6スピーカー出力に対応していません。この対応の遅れは,S/P DIF端子を持ったデジタル音声出力対応のサウンドカードの標準と,その制御API方式が決まっていない点が原因の筆頭として挙げられるでしょう。
またDolbyDigital(AC-3)対応製品は,出力する音声チャネル数によってメーカーがDolbyに支払うべきライセンス料金が変わってくるため,6(5.1)チャネル分の出力に対応すると,それだけ製品単価が上がります。ソフトDVDの価格が,最近安価になってきたDVDカードと逆転してしまう可能性もあるため,あえて対応していないということもあるようです。
なお,PCを使ったDVDの再生環境については本誌3/1号の特集2「初めて選ぶDVD-ROM」(p.195)に詳しく解説されていますので参考にしてください。
(DVD戦士 西川善司)