56Kモデムのスピードが出ない!

33.6Kbpsのモデムを使っていますが,31.2Kbpsしか速度が出ません。56Kbpsのモデムにしてもやはり31.2Kbpsしか出ないような気がするんですけど。


33.6Kbpsが最大速度のモデムを利用して31.2Kbpsでしか接続できない回線品質では,56Kモデムを用いてもやはり回線品質の影響で31.2Kbps以上の速度での接続はできないのでは? という疑問とお見受けします。結論からいうと,33.6Kbpsを超える速度での接続が期待できます。300bpsから始まった民生用モデムは改良を重ね,33.6Kbpsと10倍以上の通信速度を実現しました。こういった通信の規格は最大速度が向上するたびに新しい技術を導入しており,例えば14400bpsのモデムを利用すると12000bpsでしか接続できない回線でも,33.6Kbpsモデムを利用すれば12000bpsより速い通信速度で接続できる場合がほとんどです。56Kモデムでも同様ですが,33.6Kbpsまでのモデムとは少々異なる事情もあります。
 33.6Kbpsまでのモデムは電話回線で利用できる音声帯域内でいかにデータを高速に送るかという技術です。データ受信のプロセスは図1のようになります。
 ところが現在交換機間の回線網はほとんどがデジタル化されているので,実際には図2のようになります。
 実際にアナログ(音声)信号が利用されているのは両側のモデムと交換機の間だけです。56Kモデムで送信側となるプロバイダやパソコン通信のアクセスポイントでは,ほとんどISDN回線が利用されていますから,実際には図3のようになり,ほとんどの部分はデジタル信号でデータのやり取りが成立しています。この部分に目をつけたのが56Kモデムの技術です。モデムとモデム間のほとんどの部分がデジタル化されているのに33.6Kbpsの接続速度しか実現できない理由は,D/A,A/D変換に伴うわずかなデータの損失と,交換機とモデム間(ISDN回線ではTAとモデム間)の音声信号の損失です。そこで送信側がISDN回線であることを利用して,デジタルデータのまま受信側の交換機までデータを送り出してしまおうというのが56Kモデムの原理で,図4になります。こうしてしまえば受信側の交換機まではISDN回線でのデータ転送と同じ64Kbpsの伝送能力を持つことになり,データの損失は受信側交換機とモデム間のわずかな区間でしか発生しません。56Kモデムでは送信側のモデムは機能的にはほとんどTAであり,一般にデジタルモデムといわれます。逆方向になるアナログ回線側のモデムからの送信は従来どおり33.6Kbpsである理屈も理解できると思います。
 このように56Kモデムとそれ以前のモデムでは前提としている部分が異なるので,受信側が同じ回線品質のアナログ回線でも,56Kモデムのほうがより高速なデータ転送が実現される可能性は高くなります。また一般には33.6Kbpsモデムを用いて24Kbps以上で接続可能であれば,56Kモデム導入の意味は十分にあるといわれています。
(坪山博貴)

図1 かつての回線網はアナログ主体 図3 ISDN回線のためさらにデジタル化が進む。しかしこの状態ではまだ56Kbpsの通信はできない(絶対不可能ではないが……)
図2 現在は回線網のデジタル化が進んだ 図4 送信側が完全にデジタル化され,56Kbpsが可能となる(ただし,受け側の条件にもよる)