PC供給電圧は低下し続けていくのか

CPUのコア電圧,DIMMの電圧など,電圧が低くなる一方ですが,今後もさらに低下するのでしょうか。


傾向としては,その方向にあります。半導体には「比例縮小則」という法則があり,MOS FET(トランジスタの一種)の寸法を縮小したり,MOS FET間の配線を短くしたりして集積度を上げると,デバイスの動作速度が向上するだけでなく,デバイスに供給する電圧も下げられるというものです。最近のCPUでは,コア電圧が2.8V程度まで下がりましたが,これはCPUの製造プロセスが0.5μmプロセスから0.35μmプロセスへと移行した結果です。メモリも現在少しずつ16Mビットチップから64Mビットチップへと移行していますが,それに伴って供給電圧も下がっていくものと思われます。
 しかし,よく調べてみると,集積度と供給電圧の低下の関係は「完全」には比例していないことが分かります。基本的な比例縮小則を当てはめると,製造プロセスが2分の1になったら供給電圧も2分の1にならなければなりません。例えば,0.5μmプロセスから0.35μmプロセスへ移行したときには,供給電圧は3.3Vから2.3Vに移行するはずです。しかし,現実には2.8Vにとどまっています。
 このように集積度に比例して供給電圧が下げられない理由は,大きく分けて二つあります。第1の理由は,今まで使ってきた標準的な電圧レベルから外れたくないという理由です。CPUコアの電圧レベルだけを極端に下げると,そのほかの構成部分にも大きな変更が必要になってしまうのです。
 第2の理由は,MOS FETの物理的な制約によるものです。FETには,「しきい電圧」といって,非動作状態でも最低限負荷しなければならない電圧が存在します。このしきい電圧を供給電圧に比例して縮小すると,待機時のリーク電流が増加してしまいます。こうなると,仕事をしていないときにも不必要に電力が消費されるので,低消費電力化が叫ばれる今日では大きな問題になってきます。結局は,リーク電流が問題にならないレベルにまでしか,供給電圧は下げられないということになるわけです。
 定性的には電圧は低下する方向にあると予想することはできますが,定量的な観点では,これからの低電圧化はこれまでのようなペースと同じようには進まなくなってくると考えられます。
(伊勢雅英)