IPアドレスが足りなくなるという話は以前から出ていますが,本当に足りなくなったという話はなかなか聞きません。なぜでしょうか。IPアドレスをめぐる現状と併せて教えてください。
IPアドレスが足りなくなるというのは,推測によって導き出された予測です。当初はもっと早くIPアドレスが枯渇すると考えられていましたが,いくつかの対策により,増加のペースが緩やかになったのです。
とはいえ,それらの対策も根本的なものではなく,徐々に限界に近づいているのは確かです。現在の速度でいくと,2010年ごろにIPアドレスが枯渇するという予測データもあります。
現在行われているIPアドレスの枯渇に対する対策で代表的なものとしては,CIDRとNAT(およびIPマスカレード)が挙げられます。
以前,インターネットがあまり普及していなかったころは,現在とは違って比較的簡単にクラスA,Bといった大きな単位でのIPアドレスの割り当てを受けられました。しかし,現在ではそのようなクラス単位での割り当てを行うのはやめて,そういった大きさにとらわれず各団体などで必要な数だけIPアドレス(クラスレスアドレス)を割り当てるようになりました。この方法をCIDR(Classless InterDomain Routing)と呼びます。
それに伴って,大企業や一部の大学など,クラスA,Bといった大きな単位でクラス割り当てを受けていた組織には,できる限りクラス単位のアドレスを返却して,必要な分だけクラスレスなIPアドレスの再割り当てを受けてほしいということになったのですが,アドレスの返却はあまり進んでいないようです。
NATやIPマスカレードでは,一つのIPアドレスをいくつものマシンで使うことによって,組織ごとに最低限必要なIPアドレスを減らすことができます。これによって,全体として割り当てる数を減らすことができるようになりました。
クラスアドレスにより今までのIPアドレスの統廃合を行い,割り当てるIPアドレスを減らした分をNATやIPマスカレードによってカバーするという形になっているわけです。
国内では一時期,OCNでのIPアドレス割り当てが需要に追いつかず遅れていたことはありました。しかし,これはあくまで割り当て作業が間に合わなかったためで,IPアドレスの枯渇によるものではありません。
ここまでの対策は,現在のIPアドレス体系でしのぐための方法ですが,この方法もいずれ限界がやってきます。これからはコンピュータのみならず,家電製品などもインターネットに接続されると予想されており,IPアドレス不足はさらに深刻化するはずです。
そのため,根本的な解決方法として提唱されたのが「IPv6」と呼ばれる新しいIPアドレス体系です。現在使われているIPアドレス体系は「IPv4」と呼ばれ'70年ごろに開発されたものですが,IPv6は'94年に規格が採択されました。
IPv6ではIPアドレスを従来の32ビットから128ビットにするなど,新世代のネットワークに対応するためのさまざまな拡張が施されています。IPv6についてここでは詳しく解説しませんが,詳細を知りたい人は'98年10/15号のp.210「次世代標準特捜隊 TECH RANGER」で取り上げていますので,そちらを参照してみてください。
現在,IPv6に関しては標準化や環境整備などが行われているところで,技術としてはかなり現実味を帯びた段階まできています。しかし,インターネットそのものがIPv6に移行するには,環境整備などを含めてまだまだすべきことが多く,実際に導入されるまでには,まだ少し時間がかかるでしょう。
(恣岡 悄)