音楽CDからWAVEファイルを抽出してCD-Rに焼くとノイズが入ることがあります。デジタル→デジタルの変換なのになぜこういうことが起きるのでしょうか。
音楽CDを作成する場合,元となるCDからの波形データ(WAVEデータ)抽出→CD-Rへの書き込みという2ステップが必要です。CD-ROMドライブからCD-Rドライブに直接コピーするような場合でも,PC内部での処理は同じ手順を踏んでいます。HDDにWAVEファイルとして保存するかどうかはここでは問題ではありません。
ノイズが混入しそうなタイミングは,元CDからのWAVE抽出時とCD-Rへの書き込み時の2点が考えられますが,経験上,ノイズが乗るのはWAVEデータを抽出するときがほとんどです。とくにATAPI接続のCD-ROMドライブでは,ノイズが乗りやすくなっています。
ATAPIには,仕様上インタフェース経由でのCD-DA取り込み機能がないため,現状ではそれぞれのソフトウェアが独自にWAVE抽出機能を実装しています。CDには再生時のデータ化けを補正する機能があるため,再生中にエラーが少々発生した程度では聴感上問題になることはほとんどありません。しかし,低価格がウリのATAPIドライブではレーザーピックアップなどの要となるパーツも可能な限り安価なものが使われていることが多いので,CD-DA抽出時のピンクノイズが表面化しやすいのです。
対策としては,ノイズが乗る原因の特定から始めましょう。まずは,作成したCD-Rメディアを別のプレイヤーで再生した場合にもノイズが乗るかどうか調べてください。組み合わせによってはノイズが乗らないというのであれば,再生に使用したドライブとメディアのマッチングがとれていない可能性があります。メディアをなるべく良質なものに変えて,もう一度作成してみてください。状況が改善されるケースがあります。
次に,できるだけ構成をシンプルにし,CD-Rドライブのみで波形データの抽出を行った場合にも,同じようにノイズが乗るかどうか調べてみてください。これでクリアなWAVEファイルが作成できるようなら,抽出時の再生側ドライブの問題と見ていいでしょう。抽出/書き込みをCD-Rドライブのみで行い,一度HDDにWAVEファイルを作成してからメディアに書き込むか,再生側に使うCD-ROMドライブを交換するかのいずれかの方法で解消できます。
WAVE抽出のためにCD-ROMドライブを交換するなら,SCSI接続のものがいいでしょう。SCSI接続のCD-ROMドライブでは,ほとんどの製品でバス経由のデジタル音声抽出が標準でサポートされているからです。等速で抽出している分には新品で売られているSCSIタイプのものならどれを買ってもそれほど違いはありませんが,筆者のオススメはプレクスターとティアックの製品です。
一般的なCD-ROMドライブでのCD-DAの抽出速度は等速からせいぜい4倍速程度ですが,この2社の製品には専用のCD-DAキャプチャーツールが用意されているため,より高速にCD-DAをWAVEファイル化できます。機種によっては,ドライブのスペックどおりの速度での抽出も可能になっています。
CD-Rドライブのみで抽出しても現象が変わらない場合は,HDDの転送速度不足やSCSI周りのトラブルが考えられます。CD-ROM→CD-Rの直接コピーの場合でも,テンポラリやキャッシュ領域としてHDDは必ず使われます。極端に古いドライブを使っている場合は,ドライブそのものの転送速度不足という可能性も考えられます。また,新しいHDDを使っていてもディスクのフラグメンテーション(分断化)が起こっていると,こうした症状が頻繁に起こります。デフラグツールを使ってHDD内のファイルの再配置を行い,WAVEファイル作成に必要な容量を連続した空き領域として確保してください。
ただ,いずれの場合も最も効果的なのは,OSがインストールされているドライブとデータ用のドライブ(またはパーティション)を分けることです。こうすることで,スワップファイルやテンポラリファイルによる分断化の影響を受けにくくすることができます。
分断化と並んで多い原因がSCSIケーブル周りの不都合です。同一バス上に終端抵抗(ターミネータ)が複数あったり,逆に取り付けられていなかったり,またあまり安価なケーブルを使っている場合にも,予想のつかないトラブルを誘発することがあります。一見正常に動作しているように見えるため原因が特定しにくいのです。安価なカードはターミネータ用の抵抗に品質の良くないものが使われていることがあり,そういったカードでは不具合が発生しやすくなっています。ATAPI接続のCD-Rドライブの場合は接続するバスを変えてみてください。
なるべく低コストに,というのであれば,CD2WAV(フリーソフトウェア,もろぼし☆らむ氏作)などのフレーム間補正機能を持つCD-DA抽出ユーティリティを試してみるのも一つの手でしょう。CD2WAVは機能が豊富なうえ動作も高速かつ安定しておりオススメです。同氏のWebページ(http://www2s.biglobe.ne.jp/~elfin/)にはWAVE抽出に関する技術情報などもあり,ユーザーの動作報告も多数上がっていますので,一見の価値はあります。
また,筆者のWebページ「CD-R iNFOMATiON CEnter」(http://www.cdr.archive.or.jp/)でも,CD-R関連情報があります。併せてご覧ください。
(菊地 潤)
プレクスター製ドライブには高機能なユーティリティPlextor Managerが付属している。
これを使えばドライブ本来のスピードでのWAVEデータ抽出も可能