「地域情報化の目指すところ」
大分県知事
平松 守彦
はじめに
私は、1979年に大分県知事に就任した当初から、「GNP社会からGNS社会へ」ということを理念にげてきました。 ご存じのように、GNPとは、国民総生産でありまして、大分県でいえば、県民一人当たりの所得を上げていく、ということになります。しかし、私は、ただ単に所得を上げていくというのではなく、GNS社会(Gross National Satisfaction −国民総満足度社会)、すなわち物的満足にとどまらず、生きがいを持って地域に生きることのできる社会の実現を目指してきました。 つまり、地域にいても東京でも、どこに住んでも同じ情報が得られ、同じように充実感や生きがいを感じ、豊かな老後を過ごせる、それが私の目指す豊かな社会なのです。 また、豊かさには、都会的な豊かさと田園的な豊かさの二つがあり、この二つはこれまでは別々のものでした。しかし、これからは、VR(バーチャル・リアリティ)技術によって、例えば
地方でも、都心の大学の授業が受けられるなど、二つの豊かさが同時に享受できるようになります。マルチメディア・ネットワークによって質の高い情報のやり取りができるようになれば、自分を高め一層生活の質を高められるでしょう。こういったことから、私は、地域情報化が目指すものは、真の豊かさの実現でなければならないと考えています。
地域情報化の現状
大分県は、非常に山が多く、地形が複雑であることから、コミュニティにおいて、公共的な情報、あるいは周辺地域の情報が手に入りにくいという面がありました。 そこで、こういった壁を取り払うために、地域の情報化の推進に積極的に取り組んできました。特に、情報通信基盤の整備は、道路網などの社会資本整備とともに、活力ある地域社会を創るために必要不可欠な要素であると考え、各種の施策を推進してきました。 その取り組みとしては、まず、ふるさと創生の1億円を利用した「豊の国情報ネットワーク」の構築が挙げられます。 これは、県内のNTTの市内料金区域毎にアクセスポイントを設置し、パケット通信網でネットワークしたもので、県内どこからでも市内通話料金でキャプテンやパソコン通信等の情報通信ができるようにしたものです。また、このネットワークで提供するサービスには、ゲートウェイを経由して県外のネットワークと接続しているものもあり、県内情報の発信機能の役割も担っています。 さらに、私自身も会員である、一村一品運動の情報化版とも言うべきパソコン通信「ニューコアラ」も、この「豊の国情報ネットワーク」で利用できます。余談になりますが、昨年8月にドイツで開催された世界情報会議で地域ネットワークの話をした際に、コアラの私のIDを発表したところ、その日のうちに、オーストラリアやドイツからメールが入り、ネットワークの力を改めて認識させられたところです。 今後さらに情報化は加速し、光ファイバー等の高速通信網により、文字だけでなく、動画像や音声なども含んだマルチメディア情報を、双方向でやりとりすることが可能になるハイパーネットワーク社会が、21世紀初頭には訪れると考えられます。 そのため、大分県では将来を見据え、通産省と郵政省の協力を得て、平成5年に「(財)ハイパーネットワーク社会研究所」を設立し、ハイパーネットワーク社会への円滑な移行と実現に向けて、利用者サイドに立った各種の研究や実験を行っていきたいと考えています。
今後のとりくみ
私が、これからの地域情報化の一番のポイントとしているのは、それぞれの地方が持っている様々な情報を、どこにでも発信できるようにするということであり、そのためには、マルチメディア・ネットワークが不可欠であると考えています。 そこで、県下にいちはやく、光ファイバー網を整備するため、また、先行ノウハウ取得のため、NTTのマルチメディア地域実験に、県としては全国唯一参加し、今年度より事業着手しています。 この実験では、大学や研究機関、企業、商店街等の実験参加者が、県が設置する情報受発信用コンピュータを使って、マルチメディア情報の受発信を行うほか、電子メールや電子会議により情報交換を行うなど、地域にいても、日本全国あるいは全世界を対象とした情報通信が可能となる環境を構築することとしています。 また、郵政省の支援を受けて、大分市内の中核病院と離島の診療所等を結んだ医療相談支援システムを構築するほか、文部省による僻地教育へのマルチメディアの活用についての研究事業の一部が本県で実施されるなど、マルチメディアを地域住民の生活に役立てようとする試みが、次々に開始されることになっています。
おわりに
これらの事業展開で得た情報通信基盤やノウハウを積み重ね、将来は、医療、福祉、教育、産業などのさまざまな分野で、大分県の地域特性に応じたシステムを構築し、県民生活の質的向上、高齢者福祉の充実、産業の振興などを推進し、私が先に述べたようなGNS型社会、生活重視型社会の実現に努めていきたいと考えています。