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座談会

五千年後……さて

 ■イントロダクション
 ■五千年の旅路につかせて
 ●埋蔵を終えて
 ●制作の苦心
 ●収納物の選定
 ●あきらめた物
 ●保存の技術
 ●五千年後……さて


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――開封の仕方もむずかしいでしょうね。 
岡崎 なにしろ空気、水、光からしゃ断してあるので、いきなり開いたら、たちまち変質してし 
まうような気がします。「だんだんに外気に触れるよう、ゆっくり開封してください」と、外ぶ 
たと内ぶたの間に書いてあります。あけた後、内容物をどう処理するかについては、五千年後の 
人に考えてもらうことにしました。百年ごとにあける2号機の方には「記録類はすぐに複写して 
ください」「カプセル本体の溶接箇所を点検してください」と書いてあります。 
古田 しかし、それぞれの時代の人が「むかしの人間にまけてたまるか」ということで、立派な 
保存技術を使って残していくでしょう。 
 百年ごとに別のカプセルを作って、つぎつぎに並べていったらどうでしょう。人間ドックも 
一回だけでは効果が薄いんで、定期的にその時点での身体全体を調べてみるのがよいといわれて 
います。タイム・カプセルについても同じだと思いますがね。 
古田 そういえば、最近、韓国でタイム・カプセルを作る計画が持上がり、日本から“技術導入” 
しようといっているそうです。東南アジアの国々でも、タイム・カプセルのことは、よく知られ 
ていますからそのうち続々と作り始めるかもしれません。みんな「現代を再認識し、未来を考え 
る手段になる」と、もてはやしています。 
岡崎 二つのカプセルのうち、一つは三十年後の二〇〇〇年にあけるんですが、生きているうち 
に、カプセルの開封に立会えるというわけで、担当者はみな張切りました。五十年後では、さす 
がにそんな意欲はわかなかったでしょうね(笑い)。 
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――五千年後にカプセルを開封するのはどのような人類でしょうかね。 
 うーん。まあ、人類が生存し続けるために、まず、これ以上人間をふやさないこと。その方 
法をみつけて、実行することですね。 
赤堀 生物学的意味での人間はまあ変わらんでしょう。だが、地球上の生物の分布図は大きく変 
わるでしょうね。人間がどんな姿でどんな位置にいるのか、ちょっと見当がつかない。人間は考 
える力を持ち、自我意識が強い。ほかの生物と違うところです。人間の予測能力がいま以上に強 
くなることが考えられる。予測能力を越えるものもなかにはあるでしょうが、人間という生物は 
環境の変化に適応しセルフ・コントロールをやりうると思います。 
奈良本 だんだんに手足を使わない、頭も働かさないでいると、五千年後の人間像は退化人間と 
いうことになります。人類は衰亡するのではないか、という予感もある。だが、私たちがタイム 
・カプセルを埋めるのは、そんな未来がこないように、五千年後の人類に希望をつなぐという祈 
りがある。 
岡崎 文化や文明の意味が大きく変わり、まったく異なった文明があらわれるのじゃありません 
か。 
奈良本 産業革命以来のいまの文明は、必ず行詰まりがくる。未来の新しい文化は、それが人類 
そのものを滅ぼすことがないかどうかを考え抜いた、ギリギリのところで成立する文化だと思い 
ますね。 
 一番注目すべきものは生物学の進歩がどこまで行きつくかでしょう。どこまで生物体をコン 
トロールできるようになるかです。記憶を喪失させる薬なんかは容易につくられるでしょう。女 
房に飲ませて都合の悪いことは忘れさせる(笑い)。ある人の記憶を他の人に伝えることもでき 
るようになっているかもしれない。 
赤堀 固体が死んで代が変わっても、生命は伝わる、ということはできないものかな。たとえば 
茅先生の頭脳を全部次の世代のだれかに伝えていくような……。 
古田 五千年の間に人間社会には大混乱期が一回はあると思う。そのとき人類はほとんど絶滅し 
て「オレは知らんぞ」と穴ぐらにはいっていたような人間だけが生きのび、新しい文明をつくる。 
 遺伝子を変化させることはどうですか。 
赤堀 そう、悪い遺伝子はとりかえて、遺伝病なんかはコントロールできるようになっているか 
もしれませんね。 
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――五千年後、カプセル開封に立会う人間はどんな気持ちでしょうかね。 
奈良本 さあ、われわれがピラミッドを発掘するときと大して変わらんのではないかな。タイム 
・カプセルの意味がわかる人たちは、考えようによっては非常に健全な人間でしょう。五千年前 
の風俗の大リバイバル・ブームが到来して真っ先にミニ・スカート。男子はフンドシが流行の最 
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――「カプセルを後世に残すのは、私たちに課せられた道徳上の義務であり、またカプセルに収 
納する“現代”は、その追求過程にある私たちの行為の確認である」――こんな文章が「タイム 
・カプセルEXPO’70の現代的意義」と題して収納されています。 
奈良本 歴史を一九七〇年で切り、そこであらゆる分野を総括したということです。こういう作 
業はタイム・カプセル以外ではやっていない。「現代」を集約して、完ぺきに語っていると思う。 
赤堀 人間の価値基準というものが、これからも急速に変わっていくでしょう。現代は西洋の価 
値基準が支配的ですが、将来は日本の古い文化が価値の基準となる世の中に戻ってゆくかもしれ 
ない。そのとき、現代の日本人の文化的教養を集約した形のカプセル収納物は、価値基準の移り 
変わりを映し出すよすがになる気がします。 


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