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――収納物の選定は大変な仕事だったでしょう。
赤堀 自然科学、社会、芸術という三分野に大別して、それぞれ小委員会をつくってやったので
すが、みな熱心な先生方ばかりでしてね。苦労したというより、大いに楽しんだというのが本音
です。わたしが専門の立場で一番興味を持った生物関係の収納物について言いますと、日本の生
化学の成果である酵素や核酸の結晶を入れたのですが、これがさて何年先まで活力を持ち得るか
興味深い。五千年先は無理だが、二号カプセルのあけられる三十年後ではまだ生きた状態でいる
かもしれない。学問上の実験としても重要な意義を持っています。ハスの種子なんかは、五千年
も昔のものが現在発芽しているそうですから大丈夫でしょう。
奈良本 現代のすべてを封入するなどということはとても出来ない相談ですから「いかにしては
ぶくか」が選定の仕事だったといえます。最初あがってきた収納物候補はものすごい量でした。
しかし政治、経済のデータやスポーツの記録などは、年鑑を一冊入れればおおかた間に合うわけ
でして、そんなふうにどんどん削っていったものです。
赤堀 記録類がたくさんはいるでしょう。五千年後の人たちがもしや読めないのじゃないか、と
そんな心配もしました。しかし考古学の先生に聞くと、まあ解読してくれるだろうという保証が
出てひと安心。
奈良本 いまの世の中では図書館や博物館がかなり完備していて、おおやけのものはそういう場
所で伝えられていく可能性が強い。だからすぐすたれてしまうような風俗的なものを収納してお
く方がいい。そこでトイレット・ペーパーも有力候補にあげたわけです。「大き過ぎるからカン
ベンしてくれ」と技術関係の人たちからうまく断わられましたがね(笑い)。
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