Panasonic Pavilion
保存技術

個々の収納品に対する処理

 ■イントロダクション
 ●収納に関する技術
 ●殺菌や防じんなどの処理
 ●収納ふんい気および収納方法
 ●収納、保存の基本姿勢
 ●個々の収納品に対する処理
 ●記録写真


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品物の構成素材、製法、劣化機構を検討した結果、相当重大な劣化を予測せざるをえ 
ないものがあった。ゴム、塩化ビニルなどの一部プラスチック類、皮革などがそれで 
ある。これらの素材を含む品物は、差し支えない限り他の素材に置換したが、どうし 
ても置換不可能、または置換が現実の姿を全然伝えなくなる恐れのあるものが、少数 
ながら存在した。また、生物のように、全くそのままでなければならない性格のもの 
もあった。これらに対してできるかぎりの保存方法を講じはしたが、上述のように、 
ある程度の劣化を承知したうえで、あえて収納するという処置をとった。 

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生物関係
われわれは、できるかぎり生物の生命を後世まで保存したいと願い、種々検討を行っ 
た。現在考えられる最善の方法は、零下20〜30℃において生命を眠らせておくこ 
とであろう。しかし、タイム・カプセルEXPO’70は地下8〜15mに埋められ 
5、000年という年月を自然に静置されることになっており、その温度は15℃と 
推定される。(埋設地中の実測値は17.5℃であった。)したがって、カプセル自 
身が長年月の間働く動力源を持たない限り、零下20〜30℃に保つことは不可能で 
ある。現状において、コンパクトであって、しかも5、000年間確実に一定の冷却 
効果を期待できる方策は、見いだすことができなかった。 
このように、生命の保存の困難な自然放置の状態では、わずかに、長寿命の代表とし 
て認められている、はすの種子、あるいは一部の微生物に期待がもてるのみである。 
しかし、30年後の第1回開封の時期における実験的、学間的な試みと、現在の実物 
の形体だけでも後世に伝わった時の学問的な資料としての価植を思い、あえて、穀類 
や野菜の種子、日本における主要材木などの種子、また、こうじかび、納豆菌、あお 
かびなどの有用菌類、ファージとその遣伝因子としてのDNAなどを収納することに 
した。もちろん、これらはいずれも凍結乾燥、あるいは、いったん低温に保持して乾 
燥するなどの事前処理を施した後、適当なふんい気に調整した。なお、30年後およ 
び100年ごとに開封する第2号機の中には、同一種類を2本ずつ収納した菌とファ 
ージ類がある。うち1本を交互に利用して純粋培養し、100年ごとの植え継ぎを企 
図したためである。また、生物そのものではないが、生命活動に非常に関連をもつ酵 
素の類も、日本を中心に選定され、収納された。ただし、動物の保存は、上記のよう 
な条件でもきわめて困難であるので、形を残す意味で、プラスチックモールドしたこ 
ん虫類にとどめることにした。したがって、動物および植物は、書物による記録に負 
うことにした。 

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ゴムおよび塩化ビニル
ゴムは、天然ゴムの場合、純粋な材料を使用し、加硫時の管理に十分な注意を払えば 
長期保存の可能性がある。人造ゴムも同様である。しかし、収納品のうちで、特に社 
会分野での選定品の一部に使用されているゴムについては、上記のような特別な処理 
は、実際問題として実施困難であった。したがって、加硫の過剰からくる硫黄の発生 
を覚悟する必要があるので、個々に石英管に別封して、分離をその中で飽和させると 
ともに、他への影響を避けるように処置した。 
塩化ビニルについても、通常の工程で作られたものは、長年月のうちに可逆剤が遊離 
したり、分解によって塩素を生ずるおそれがある。これもゴムと同様に別封した。 

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天然皮革
天然の皮革は、エジプトのピラミッドの造物にわずかにそれらしいこん跡が認められ 
るのみで、その原形は残っていない。動物タンパク質、ヒスティンなどのタンパク質 
性繊維、ゼラチンなど、複雑な物質が複雑に混合してできあがっているからで、おそ 
らく、その中には、ある種の酵素も含まれており、長い年月の間にはアミノ酸へと分 
解していくであろうと考えられる。現時点でも、天然皮革の分解を完全に阻止する方 
策は確立されていないが、20世紀が皮製品を多量に使用した最後の世紀になるだろ 
うという見解から、一部のものをあえて収納した。ただし、今回のタイム・カプセル 
EXPO’70においては、エジプトのピラミッドの場合に比し、皮のなめしや保存 
条件が格段に良いと考えられるので、相当の期待はもてるであろう。収納においては 
分解を考えて一つの小容器にまとめ、他への影響を防止した。 

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記録媒体
タイム・カプセルEXPO’70は、現物主義を基調としたため、記録の量はそれほ 
ど膨大にはならなかった。とはいうものの、映画、録音、書籍を含め、広義の記録類 
は約100件にのぼった。限られた空間に、われわれが残そうと欲するすべての事象 
を現物で収納するのが不可能で、少ない空間に多量の情報を盛り込むことのできる記 
録という方法が必要であったためである。もちろん、1970年現在、書箱、新聞、 
論文など文字文化の所産は、まだ隆盛であった。これらは論理的には収納現物である 
が、保存という見地からすれば、記録類と同じく取り扱えるので、以下に記録という 
時は、これらを含んだ広義の記録を指す。 
さて、記録する方法、手段について大別すると、肉筆によって文宇や画をかくことの 
ほかに、彫刻、写真、録音、録画などがある。これら5種の手段の特長を生かしつつ 
十分活用することを第一義に考えた。1970年代の記録手段の主なものを伝えるこ 
とにもなるからである。 
そのために、それらの手段の有効な媒体となる各素材についての検討が、主として熱 
加速劣化試験によって進められた。これによって、紫外線その他の外部からの有害気 
体や物質を絶った場合――つまり、カブセル本体内部の状態で――5、000年間に 
どのような素材の変化があり、それが媒体としての特性にどのように影響するかを推 
定したのであった。以下は、それぞれの素材あるいは手段について処埋した経過であ 
る。 

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(1)紙類
洋紙、和紙を問わず、紙の製造工程において混入した微量の酸素や水分は、カプセル 
本体への収納前の処理では完全に除去することができない。この点は現物で収納する 
各種の繊維や繊維製品と同様である。したがって、外部よりの酸素、水分の混入がな 
くても、みずからの中に包含するそれらによって分解する可能性がある。事実、紙の 
類を120度、2時間程度減圧下で処理した後に、乾燥窒素中で熱処理すると、明ら 
かに紙の劣化が認められる。機械的な強度の劣化とともに色も茶かっ色へと変化し、 
平均分子量も低下している。 
これらの実験から、一般に、長くてある程度太い繊維からなる紙類が、劣化に対して 
強いことが確認された。われわれが入手した範囲では、特別手すきのがんぴ紙(和紙) 
高電圧ケーブル用の超絶縁紙(洋紙系)が非常に良好な成績を収めた。インディアン 
紙がこれに次いだ。いずれにしても、5、000年後にはある程度のかっ色化は免れ 
えない。一方、通常の洋紙では、その機械的性質の劣化、黒化は相当激しいと推定さ 
れた。 
しかし、白地に黒い文宇を印刷している限りでは、その文字が消えたり見えなくなる 
ほどには劣化が進まないであろうと考えられたので、通常の印刷物はそのまま収納す 
ることにした。この場合、実験の結果、非常に悪いを影響を及ぼすであろうと考えら 
れる表紙やその他の表面処理などは、極力避けるようにした。ただし、色彩の正確さ 
を特に必要とする印刷については、特に超絶縁紙に白色印刷し、これに後述のような 
強い顔料、染料を用いることにした。「日本現代風俗絵巻」4巻は、特に日本古来の 
方法によって製作された手すきがんぴ紙を使用している。 

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(2)顔料,絵の具など
顔料や絵の具についても多くの比較試験を行った。その結果、顔料としては、特に不 
純物の少ない合成顔料のシリーズに良好なものが見いだせたが、これには中間色が少 
ないのが欠点であった。絵の具では、新岩絵の具――顔料をガラス中に分散した形式 
のもの――が最も良好であった。ただし、これも必ずしも色彩の種類が多いとはいえ 
なかった。このようにして、顔料、絵の具の単体を選び出すことはできたが、いずれ 
も、使用する時には、紙その他の上に書くか、印刷するかの方法をとらねばならない。 
その際、これらには必すバインダー(分散媒)その他が併用されねばならないし、そ 
の他のバインダーも時には必要となる。したがって、色彩のある絵や印刷物の劣化は 
単体の性質とともに、複合されたものの性質に依存する。印刷の場合ならば、顔料、 
染料は印刷インクとして考えねばならないし、肉筆画(日本画)の場合には、バイン 
ダーとして、にかわと水、助剤として礬(どう)砂(みょうばん)を使用すると考え 
ねばならない。そこで、これら複合体と紙との相互作用の有無を検討したところ、印 
刷インクは現行のうちで最高級のものを使用すれば問題が少ないことがわかった。一 
方、にかわと礬砂と紙の相互作用は非常に大きく、なかでも、にかわの低級品はその 
悪影響が著しいことが見いだされた。そのため、肉筆画では、新岩絵の具を主体に、 
礬砂をひく量はできるだけ少なく、また、にかわには、最高級といわれる鹿(しか) 
にかわを用いることにした。なお、肉筆画には、色彩表現の豊かさを求めるため、新 
岩絵の具のほかに、岩絵の具の中の劣化に強いものや、最純の合成顔料をいずれも少 
量併用した。 

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(3)特殊印刷および印写
既製の印刷物は、前述のように、適当な前処理の後、そのまま収納した。また収納空 
間の関係で、文章をそれほどマイクロ化する必要がなかったため、1970年代の印 
刷・印写の技術水準を示す意図のもとに一部のものがマイクロ化されたにとどまった。 
マイクロ化についての議論の過程では、電子顕微鏡的なきわめて微細な文字を刻む技 
術としての電子ビーム露光法も検討された。なるほどこの方法は、1970年現在で 
可能な最高技術であり、25mm角のシリコン板上に通常の印刷物約100ページを 
書き込むことも十分可能であった。しかし、まだこの方法は一般化されていず、その 
再生読み取り装置も膨大であり、またこのタイム・カプセルには、それほどの微細文 
宇を必要としない。結局、現在一般的に行われている技術を用い、電子顕微鏡的文宇 
よりもむしろ肉眼で見える程度、もしくは少なくとも通常の顕微鏡の拡大率で十分な 
程度にすることに決めた。そして、この種の代表として、(イ)ステンレス鋼板上へ 
の微細食刻(腐食印刷)、(ロ)マイクロブック、(ハ)シリコン板上への微細食刻 
(ニ)マイクロフィルム、の4者を選んだ。 
このうち、(イ)ステンレス鋼板への微細食刻は、肉眼的な文字印写の一例であり、 
「現代風ロゼッタ石」として、国連公用語――中国語、英語、フランス語、ロシア語 
スペイン語――に日本語を加えた6か国語で刻み、後世への一種のキー・ワードの意 
味をもたせた。モニュメントのすぐ下に埋設した、タイム・カプセルの開封解説書も 
この方法によった。 
また(ロ)マイクロブックは、紙に印刷するという技術を最高度に発揮したものとし 
て採用した。技術上は文字の大きさが0.1mmぐらいまで容易であるが、今回は特 
にそこまでの必要性がないので、通常の印刷物を1/4程度に縮小するにとどめた。 
いわば虫眼鏡的縮小率である。用紙はインディァン紙を用いた。 
(ハ)シリコン板への微細食刻は、1970年現在、電子部品として急激な発展を遂 
げつつある集積回路(IC)の技術を最高度に活用して作製された。これによって一 
部の文章がシリコン薄板の上に縮小印刷された。この縮小率は、技術的にはきわめて 
大きくできるのであるが、この場合にも顕微鏡的縮小率にとどめた。 
(ニ)マイクロフィルムは、すでに絶版となっている書籍の複写、あるいは一部の説 
明書や図面など、特殊な場合に採用した。フィルムの保存のための特殊な処埋法につ 
いては次項に述べる。 

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(4)写真類
解像度、階調などの点からみて、銀塩フィルムに勝る他の種類の写真フィルムは、 
1970年現在においては、工業製品として一般化されていない。ところが、この銀 
塩フィルムには、銀のバインダーとしてゼラチンが使用されており、このゼラチン以 
上のものはまだ見いだされていない。ゼラチンは完全乾燥すると、脱水、収縮してひ 
び割れを生じたり、フィルムベースからはがれたりするので、銀塩フィルムを保存す 
るためには、相対湿度が少なくとも30%以上であることが望ましい。したがって、 
フィルム類は、前述のように調湿して収納した。 
ところが、この湿度は、現像・定着されて像の形成に関与している銀の微粒子に重大 
な影響を及ぼす。すなわち、銀は、水分の影響とゼラチン内にわずかに含まれている 
であろう酸素との相互作用の結果、年月を経ると黒化部に透明な班点を生しる。いわ 
ば、長年の問に、像が変化し、消えていくことになる。水分がこれを助長するために 
銀塩フィルムの寿命は、長くて500年程度、短ければ200年程度しか期待できな 
いというのが定説であった。水分の存在下に銀塩フィルムを5、000年という長年 
月保存するためには、根本的な処埋が必要となった。 
このために施されたのが金調色処理(Goldltreatment)である。すな 
わち、銀塩フィルムを現像・定着処理した後、金溶液の槽(そう)に通し、フィルム 
上の銀粒子またはその粒子表面のある程度の深さまでを金に置換することによって、 
前述の銀粒子の酸化による透明化を防ごうとしたものである。もちろんこの場合、フ 
ィルムベースは水に強いポリエステルで構成してある。この金調色法の開発、使用化 
によって、写真フィルムの耐久力は大いに向上し、マイクロフィルムによる複写、映 
画フィルムの収納に光明を見いだすことができた。特に、動的なものの代表としての 
映画フィルムの収納が可能となったことは、技術上からみても、一つの収穫であった。 
しかし、この方法は、化学的な処理を2度3度と行うために、印画紙のように薬品や 
水分を吸収しやすいものには運用が困難である。水洗に労多く、結果もポリエステル 
ベースのフィルムに比べて期待し難い。したがって、印画紙を用いることは極力避け 
写真類はスチル写真も含めて、すぺてマイクロフィルム化して収納することにした。 
なお、文字を主体にしたものは、(ネガ)で、スチル写真は、陽画像(ポジ)で収録 
した。これは、形や姿を主体とした画像に比べて、文字の場合には、万一の劣化欠損 
がポジにおいては重大な誤読のもとになる恐れが多いと考えたからである。金調色処 
理は、もちろんカラー写具に対して適用することはできない。1970年現在に用い 
られているカラー写真のフィルム、印画紙ともに、長くて50年、短いものは10年 
程度でひどい退色がある。それは、写真用に通常採用されている染料がきわめて弱い 
ことに原因があるが、といって、量産的に強い染料を使用したフィルムを製作するこ 
とは、技術上はなはだ困難であった。そのため、通常のカラー写真は断念せざるをえ 
なかった。 
しかしながら、1970年現在は、映画といい、テレビジョンといい、カラー化の時 
代であるので、何らかの形でカラー写真の実例は残しておきたかった。そのため、ダ 
イ・トランスファー法を用いて、カラー写真の現代の最高水準を伝えることにした。 
これは、写真と印刷の中間ともいうべき方法であって、3色に分解して撮影した3枚 
のネガを下にして印画紙陽像上に、1色ずつ強い染料、顔料で重ね染めしていく方法 
である。劣化試験による推定では、長い年月の間の退色量が非常に少ない。入念な仕 
上げと水洗によって、このは、小・中学生の描いた5、000年後の想像図の原寸大 
の複製などに適用された。この絵は、通常の画に、通常の水彩絵の具で描かれていて 
とうてい長年月の保存は望めなかったが、ダイ・トランスファー法カラー写真の適用 
で、われわれは、その絵の描かれた当時の姿を忠実に後世の人びとに伝えることの可 
能性を見だすことができるようになった。 

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(5)録音
われわれは、1970年現在、音の保存に関して3種の方法を実用している。一つは 
映画などにみられる(イ)光学的録音であり、次は(ロ)磁気録音、そして(ハ)レ 
コード盤である。一般家庭で音を再生して聴く時に、通常はレコード盤と磁気録音テ 
ープによるものが相半ばする情勢で、それも、音楽はレコード、その他はテープで、 
というのがだいたいの傾向であった。このカプセルにも、音楽、人の声、動物の鳴き 
声から雑音まで、もろもろの音が収録されている。これにあたって、やはり、1970 
年代の録音技術の大勢をできるかぎり取り入れようと考え、上記3種の方法について 
その保存性の可否を十分に検討した。 
その結果、(イ)光学的録音に関しては、金調色すれば、やや音は硬調、つまり少し 
陰影に欠けるようになるが、一応聞くためには差し支えなく、保存が可能であるとの 
見通しが得られた。したがって、映画に付属する音は、その映画フィルムの一部に、 
現在使われているトーキー手法を用いて焼き込むことにした。 
(ロ)磁気テープについては、テープがよいか、ワイヤー録音がよいかなど、多角的 
に検討された。磁気録音の媒体素材であるγ−酸化鉄に記録された磁気は岩石磁気の 
例からみても、非常に大きな磁気変動が外部から加えられない限り、数百年はおろか 
数万年以上も保持できるであろうと推定される。したがって、磁気録音テープは、そ 
のγ−酸化鉄を分散しているバインダーや、テープとしての形を保持しているフィル 
ムベースが十分保存できれば、長年月の音の保存には好適なものであることがわかっ 
た。ベースをポリエステルに代え、精製されたバインダーを用いてテープを作り、こ 
こでも熱加速劣化の方法を活用して、録音としての寿命を椎定した。それによると、 
可聴周波数を問題とする限りにおいては、35、000〜60、000年ぐらいにわ 
たって、録音レベルの低下は、10kHzで2〜3dbにすぎす、またこの低下は主 
にバインダーの機械的性質の変化に起因することがわかった。いずれにしても、この 
ような特別製のテープを使用すれば、音の保存はまず可能であるとの結論に到達でき 
た。なお、長年の間に、巻かれたテープの層の間で磁気的な転写のあることを避ける 
ため、ポリエステルベースの厚さは50μとした。 
ただし、この実験結果から、テープの機械的性質の変化のために生ずる高周波側での 
変動を避けることが困難であるので、より機械的性質の厳密さと、より高周波の動作 
を必要とする磁気録画に関しては、自信をもって保存しうる方策がなかった。したが 
って、テープ録画の方は採用していない。 
(ハ)レコード盤は、1970年現在、昔のシェラック板から塩化ビニル板に変わり 
ステレオ・ハイファイとしてちょうほうされていた。だが製作の工程上、この盤は数 
多くの充填(じゅうてん)物を含み、また塩化ビニルには可塑剤を含むのが通常であ 
ったので、長年月の間には、これらの充填物や可塑剤の分離によって非常に雑音が多 
くなると推定された。したがって、現行のレコード盤は、保存には不適当であるが、 
社会的な見地からも、ステレオ・ハイファイの立て役者となった技術的な意味からも 
現在重要な位置を占めており、その形態、機能はぜひども残しておきたかった。そこ 
で、少数ではあるが、ニッケルをめっきして製作したレコード盤を収納することにし 
た。 
このレコード盤は、現行のレコード盤と金く同一の形態、機能を備えており、なお耐 
食性に万全を期するため、金電鋳を施してある。もちろん、この金亀鋳の層をつけた 
ままプレーヤーにかげても、ステレオ・ハィファイの音が再生されるようになってい 
る。 

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(6)計器類
われわれは、われわれの記録が5、000年の間、できるかぎり次々にフォロー・ア 
ップされていくことを望んでいる。しかし長い年月のことであり、また不測の出来事 
から、そのフォロー・アッブが断たれることがあるかもしれない。あるいは地中の出 
来事が十分に地上に伝達されていないかもしれない。現在非常に一般的と思われてい 
るもろもろの機器も、未来にはまったくその形態、形式を変えているかもしれないし 
それについての科学的な予測も不可能である。この意味を含め、われわれは2、3の 
計測器の類と、記録を再生する再生機器の原理図を収納しておくことにした。 

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イ)温度計
地下8〜15mの地中に埋められたタイム・カプセルは、17℃±1℃に保持されて 
いるであろうと期待できる。しかし何らかの外部的な影響が起こるかもしれないので 
溶融石英ガラスのチューブで気密を保ち、さらにステンレスの箱に入れて2重に防護 
した最高最低温度計を、カプセルに近接して設置することにした。これによって、カ 
プセルが経験した異常な温度の足跡を知ろうとしたのである。 

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ロ)プルトニウム原子時計
5、000年という時間的な経過を歴史のうえで、あるいは暦のうえで知ることのほ 
かに、現在の科学水準の端的な応用として、原子の核壊変の時間的変化を基準にした 
時計を収納することにした。それは新しく考案、開発されたプルトニウム原子時計で 
ある。これはPu239からの放射によって発生するHe(ヘリウム)の量をベロー 
ズの膨張として捕らえ、経過年数指針の動きにより直読する形式のものである。所要 
量のPu239(時計1個あたりPu239として1gに相当する酸化プルトニウム) 
は、それぞぞれ厚さ1μの金箔(きんぱく)10層に包んで6個の無酸素銅製小容器 
中に納められ、次に、その6個の小容器を1個のべローズ内に収納している。そして、 
ベローズ内は1気圧のHeが満たされている。Pu239の放射するα粒子は金箔を 
通過することによってHe原子となり、ベローズ空間に広がって行く。この広がりを 
圧力として捕らえ、経過年数を目盛りで読み取れるようにしてある。ただし目盛りは、 
27℃における経過年数の表示である。 
なお、上記の原子時計のほかに、Pu239単体を酸化プルトニウムの形で収納した。 
これが壊変してU(ウラン)になることを利用し、後世の人びとが、生成Uの量を測 
定して経過年数を知ることができるようにと考えたものである。 
その他、1970年現在、考古学的な過去の時間測定によく用いられる放射性炭素C 
14も収納することにした。この炭素の半減期は5、568年とされているが、5、 
400年という説もあり、現在まだ確定していない。長年月を経たC14が、はたし 
てどちらを正しいとするか、興味ある試みである。 
以上のようなものを記録媒体として収納したが、現物収納の原則上、現行のもののう 
ちで、最も形の小さいもの、しかも機器の類はごく少数を選んだにすぎない。そのた 
め、マイクロフィルムを見るための装置、映画として再生する装置、磁気録音の再生 
機、音・声の再生という類は大型すぎて、とうてい収納できなかった。そのままでは 
われわれがどうのように取り扱っていたかを、後世の人びとに具体的に知らせること 
ができないので、それらの再生機器、装置の原理図を残して、その目的に当てること 
にした。 


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