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――タイム・カプセルの技術委員会は、日本の科学界の最高頭脳を集めたことで、大評判になっ
たものです。この委員会をとりまとめられた茅先生、委員会の裏話をお聞かせください。
茅 率直にいって、実に楽しい委員会でしたね。大学の定年過ぎや、それに近い人が多く集まり
ましたが、みんな、かつては学会などで議論しあった仲間です。会合のたびにヤアヤア、ワイワ
イと、それは愉快でした。なくなられた切削工学の大越諄委員(東洋大工学部長、四十四年十月
死去)など、カプセル本体のステンレスの切削について、たいへんな熱のいれようでした。「そ
れほどしなくても」と思うくらい、自分の実験室でやっていました。そのデータを、委員会出席
の途中、新幹線のなかで得意そうに広げて見せてくれたりして……。「大越さん、楽しそうです
ね」といったら「うん、楽しい、楽しい」。あのあと間もなくなくなりましたから、あれが大越
さんが研究を楽しんだ最後でしょうね。今井勇之進委員(東北大教授)が本体の金属を、岡田実
委員(阪大名誉教授)はカプセルのフタの溶接を、増本量委員(電気磁気材料研究所理事長)が
「磁気は五千年くらい消えないからテープはOKだ」など、まったく熱心に話合ったものです。
岡崎 私たちが実験しようとすると、ほとんどの先生たちが「いや、自分の手でやってみる」。
ずいぶん力をいれてくださいました。
古田 しかし、その委員の方たちを集める段階では「そんな夢のような話」と笑われるのじゃな
いかと思って……。茅先生に「うん、それはおもしろそうだね」といわれた時は、ほんとうに救
われた感じがしました。発足後は、委員会の出席率もよく、安心しましたが。
茅 自分の大学にも、専門にもこだわらずに討論できるのだから楽しいわけだ。こんな会合は今
までいちどもなかったですから。
古田 アメリカのアポロ計画に匹敵する頭脳集団でしたね。
岡崎 思いがけないことにもずいぶん出くわしました。収納物をくるむ紙について、登石健三委
員(東京国立文化財研究所)と相談して、手すきの薄葉紙を選んだのですが、実験してみると、
この紙がすぐ黒く変色する。保存技術の大敵である塩素分が多いんです。手すきだからそんなは
ずはない、と製造元へ行ってみたら、なんと簡易水道の水を使っていた。これではダメだと、人
間絵巻の用紙などは、無形文化財の成子佐一郎さんに頼んで特別に手すきの雁皮紙をつくっても
らいました。収納物の小箱に張った材質なども、メーカーの方が「へえ、そんな使い方もあるん
ですね」とびっくり……。
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