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座談会

収納物の選定

 ■イントロダクション
 ■五千年の旅路につかせて
 ●埋蔵を終えて
 ●制作の苦心
 ●収納物の選定
 ●あきらめた物
 ●保存の技術
 ●五千年後……さて



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――収納物の選定は大変な仕事だったでしょう。 
赤堀 自然科学、社会、芸術という三分野に大別して、それぞれ小委員会をつくってやったので 
すが、みな熱心な先生方ばかりでしてね。苦労したというより、大いに楽しんだというのが本音 
です。わたしが専門の立場で一番興味を持った生物関係の収納物について言いますと、日本の生 
化学の成果である酵素や核酸の結晶を入れたのですが、これがさて何年先まで活力を持ち得るか 
興味深い。五千年先は無理だが、二号カプセルのあけられる三十年後ではまだ生きた状態でいる 
かもしれない。学問上の実験としても重要な意義を持っています。ハスの種子なんかは、五千年 
も昔のものが現在発芽しているそうですから大丈夫でしょう。 
奈良本 現代のすべてを封入するなどということはとても出来ない相談ですから「いかにしては 
ぶくか」が選定の仕事だったといえます。最初あがってきた収納物候補はものすごい量でした。 
しかし政治、経済のデータやスポーツの記録などは、年鑑を一冊入れればおおかた間に合うわけ 
でして、そんなふうにどんどん削っていったものです。 
赤堀 記録類がたくさんはいるでしょう。五千年後の人たちがもしや読めないのじゃないか、と 
そんな心配もしました。しかし考古学の先生に聞くと、まあ解読してくれるだろうという保証が 
出てひと安心。 
奈良本 いまの世の中では図書館や博物館がかなり完備していて、おおやけのものはそういう場 
所で伝えられていく可能性が強い。だからすぐすたれてしまうような風俗的なものを収納してお 
く方がいい。そこでトイレット・ペーパーも有力候補にあげたわけです。「大き過ぎるからカン 
ベンしてくれ」と技術関係の人たちからうまく断わられましたがね(笑い)。 
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――トイレット・ペーパーなんて五千年後も必需品じゃないのですかね。奈良本 いや、百年前 
には木の葉を使っていた(笑い)。口紅とか、つけマツゲ、ビキニ、パンティ、こん収納物も五 
千年後には使い道がわからぬだろうと、絵巻物(人間絵巻)で図示しました。絵巻物は日本人の 
明した手法ですが、過去の風俗が手にとるようにわかりますから。 
高須 酒をいれようという声もありましたね。「一升ほども入れて、未来人に飲ませるなら意味 
があるが、ほんのすこしでは……」という意見で結局、やめることになりましたが。 
岡崎 意義が大きいのは、動く絵と音声、つまり映画とテープを残したことだと思います。中国 
文学の吉川幸次郎先生が「中国の古文の研究でいちばん困るのは、音声が残っていないことだ。 
漢字ばかりが最初から最後まで切れ目なく並んでいるから、どこで区切ったらよいのかわかりに 
くい」と話しておられました。五千年後の人は現代語の音声を知るから、その点はラクなわけで 
す。 
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――五千年後の人間をびっくりさせたり、困らせたりしてやろうというような、茶目っけのある 
収納物はありましたか。 
奈良本 つけマツゲなんか首をひねるでしょうな。そして使い方がわかると、女性の間にパッと 
流行する(笑い)。パンティは頭にかぶってみたりね(笑い)。性生活の手引きも入れました。 
古田 音の記録で、イビキ、歯ぎしり、ハミングなんてのがありますよ。これは説明がないから、 
なんだろうと頭を悩ますでしょうね。 
岡崎 すべて説明しようとしたら、説明書だけでカプセルがいっぱいになってしまう。少しずつ 
抜かして、研究の余地を残しておいてやるのもいいじゃないですか。 
奈良本 五千年後にはカプセル研究で博士が生まれる(笑い)。 
岡崎 ママゴト・セットなどは収納物の中でも楽しいものですが、いまのママゴト・セットには 
ハシと茶わんがないんです。フォークとナイフだけ。絵巻物にはハシと茶わんの食事風景が出て 
くるので、くい違っちゃう。最後になって、あわててつけ加えましたけど。 
奈良本 絵巻物は実に細かく現代の風俗を描き込んでいる。それに毎日年鑑、汽車の時刻表、職 
業別電話帳。時刻表からは日本中の地名と交通のありさまがわかるし、電話帳からは職業のすべ 
てがわかる。その目的で、変てこりんな職業が残っている京都市の電話帳を入れました。これだ 
けそろえば、現代日本のすべてを伝えることができたといえますよ。 
高須 考えてみると、タイム・カプセルが生まれるまでに三転してるんですよ。選定委員が決ま 
るまでの苦労がその一つ。こんどは、何を入れるかで、委員たちが真剣に討論した。あまり真剣 
すぎて、まとまるのかな、と何度も心配した。構想がほぼまとまったのは、やっといまから一年 
前なんですよ。 
赤堀 選ばれた委員たちは、責任重大とばかり、みんな真剣になりすぎた。そんな空気のなかで、 
坂西志保委員が「収納し忘れたものが一つや二つあったってかまわない。気楽にやりましょう」 
といわれたので、ほっと肩の力を抜いたものです(笑い)。 
高須 二号機の方は三十年後にあけるでしょう。私たちが各分野の方たちにお願いに行くと、み 
なそれを聞いて「それならオレも生きている。ちゃんとしたものを入れてもらわんと」と真剣に 
なってくれましたね。大いにきき目がありました。万国博期間中でも、ソ連当局なんか大変な力 
の入れようでした。月面に置いてきたルナ2号のペナントの複製をもらったのですが、観客を集 
めたソ連館コンサート・ホールでぎょうぎょうしく贈呈式なんかがあって。 
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――収納物リストを見ますと、選定作業からたった一、二年で、もう時代の流れを感じますね。 
高須 社会分野では万国博と大学紛争の記録類がたくさんはいっていますが、公害問題は抜けて 
いる。アトラス(地図帳)には「公害地図」がはいっていますが…。とにかく収納物集めの時点 
は大学紛争のさなかだったでしょう。大学の先生方は避難して雲隠れしていましてね。連絡がと 
れず困ったものです。 
古田 ある大学教授は、自宅へ電話をすると、こちらを学生と勘違いしてか「番号違いだ」とが 
んばるのです。明らかに本人が出ているのですがね(笑い)。タイム・カプセルのため書下ろし 
た「科学レポート」では、執筆を依頼した阪大の先生がなかなか見つからず、探し当てたところ 
が阪大病院のベッド。書く方も書いてもらう方も悲壮なものでした。 


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