1900 Paris

 パリで底ぬけに楽しい所に連れて行ってとおっしゃるんなら、やはりムーラン・ルージュでしょうな。
 モンマルトルの丘あたりは昔は農地でね。いっぱい風車小屋があって、のたりのたりと風車が廻ってたんだね。
 まあ、赤い風車=ムーラン・ルージュはその名残りで、あちこちから万博見物に来たおのぼりさんを連れて行くと、 皆さんフレンチ・カンカンに狂喜しちまうね。
 なにしろよりすぐりのべっぴんさんたちが、こともあろうにスカートをまくりあげて、脚を振りあげるは、しまい にゃ尻まくりだから。
 このあいだも田舎から出てきたじいさんを連れて行ったら、「有難やのマリア様、これで寿命が伸びました」なん て感激してましたな。
 この小屋は1889年に開店して以来の大人気、あのロートレックがポスターに描いたグーリュ嬢のあで姿を、あなた ももう見たでしょう。
 カンカン踊りを見物するだけじゃなく、お客自身が踊れるフロアや、酒を飲む椅子席もあります。
 また中庭にはどういうわけだか巨大な張りぼての象があり、そのまわりのテーブル席でアラビアンナイトみたいな ヘソ出しの踊り、ベリーダンスを見たり、いろいろな芸人や手品師を楽しめもする。
 パリにはこの他に、フォリー・ベルジェールといったミュージック・ホールや、シャンソンを楽しむシャンソニエ、 本格的な音楽家が出演するカフェ・コンセールなど、エンターテイメントは数多くありますが、なんといってもムー ラン・ルージュはその王様格、いわば娯楽の殿堂といった店でね。
 デカダンス好みの世紀末らしい風景が、ここにはいっぱいあってね。
 もう一軒のムーラン・ド・ラ・ギャレットは画家のデュフィーやルノワールも常連さんだったらしいよ。
 当時の雰囲気をルノワールの絵から読み取ることができる。
 そうそう、すぐ近くのモンマルトルの丘に建設中のサクレクール寺院も、素晴らしい建物になりそうですぜ。