1900 Paris

 ブーローニュの森は、昔、王様たちの狩猟場だった広大なルーヴルの森の一部が公園として整備されたものだ。
 パリの郊外図を見ればこの都市のまわりには、ランブイユ森や、フォンテンブローの森といった自然が今も残さ れているのがわかるだろう。
 オスマンの都市計画の折に、ナポレオンを賞讃したロンドンのハイドパークを手本に、市民のための公園として 生れかわったんだ。
 環境が良いから、近頃はブルジョアたちが好んで暮らす高級住宅もまわりにできあがった。
 狩猟の森時代の名残と言えば、今でもクレー射撃の団体の本拠でもある。
 でも近頃のはやり物は、なんと言っても近代の産物、自転車だろう。
 高価な自転車遊びができるのは、やはりブルジョアの皆さんだが、はじめは有閑マダムたちは前世紀風の長いス カートで乗っていたが、それじゃ不便と、このごろはスポーティーな自転車ファッションも登場した。
 凱旋門の西、16区と17区の境界の大通り、グランダルメ通りに行くと、今風のスポーツファッションが手に入り ますよ。
 馬車から自動車の時代に変りつつあって、近頃は森を歩くのも命がけだね。
 命がけと言えば、前世紀にはまだまだ恋や名誉のための決闘も多くてね。くわばらくわばらだ。
 面積はおよそ900ヘクタールもあるこの森の公園には有名なロンシャンの競馬場があるし、いわば昼の社交場といっ た市民のための大空間で、私は数えたことはないが、聞くところによると、およそ14万本もの樹木があるらしいね。
 そうそう最新のニュースだが、今年になってこの森の中に、“グラン・キャスケード”というレストランが開店した。
 狩場だった場所で、美味しい料理が食べられるなんて、夢のようでね。季節ともなれば、ジビエ(猟の鳥獣肉料理) に舌鼓を打つってわけでね。まるで王侯貴族の気分が味わえると評判になってる店ですな。