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――ひとくちに“五千年後への贈りもの”といいましても、実際それを制作する段になると、た
いへんな作業でした。予想もしなかった障害をつぎつぎに解決して、ついに完成させたスタッフ
の苦労はなみたいていのものではなかったでしょう。ひとつ、みなさんの苦労話を聞かせてくだ
さい。
古田 当時、毎日新聞学芸部員だった私がタイム・カプセルに接したのは、ニューヨーク博のパ
ンフレットによってです。そこに、ウェスチングハウス社のカプセルの写真があり「おもしろそ
うだな」と思ったのがはじまりです。その後、渡米したさいに資料を集めてみると、いやに簡単
にできている。内容もビキニ水着、ビートルズのレコードなど当時の流行品ばかり。ニューズウ
ィーク誌の記者などと「日本で、もっと本格的なものを作りたい」と話して帰ってきたら、さっ
そくそのことが同誌に載ってしまった。基本案を作って松下電器へ相談に行ったのは昭和四十二
年五月、毎日と松下の連名で社告記事が出たのは翌年の一月です。それから後の準備期間は「ど
んな委員会を作るか」「日本的な性格をどうやってつけるか」など、短時間に多くの難題が重な
って、無我夢中でした。
岡崎 技術的な面でも苦労の連続でした。なにしろ五千年という時間でしょう。私たちはふだん、
せいぜい一年か二年先のことを考えて物を作っています。研究室では何万分の一秒なんていう時
間を相手にしている。五千年先のことなど考えたこともない。なにから手をつけていいやら……。
とりあえず「物が腐っていくことはどういうことなのか」を、あまりむずかしくなく、簡単に考
えることからスタートしました。三年足らずの準備期間ですから、一つ一つの保存法にあまり時
間をかけるわけにもゆかず、まあ、五千年をメドに、プラス・マイナス三〇%くらいの誤差を見
込んで保存する方法が見つかればよしとしました。
高須 意外にむずかしかったのは、物の形を残すのか、機能を残すのかの問題です。シャツなど
を現在の形のまま残すには、たとえば石英繊維で織ればよい。しかし、五千年後の人が「むかし
は石英を着ていた」と思ったのでは困ります。本などは文字さえ読めれば、少しぐらい変色して
もよい。レコードは形がそのまま残らねば音が再生されない。それらを考えながら、二千九十八
点全体の保存技術のレベルをそろえる努力をしました。そして、最後の難題は、球の中にこの膨
大な数のものをどう詰めるか。「球ではなく円筒形だったらだいぶラクなのに」と、ぼやきたく
もなりました。なにとなにを隣合わせにするかでも、ひと苦労。塩化ビニールと紙をくっつける
と紙がいたむし……というぐあいでした。
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