こととなく君恋ひわたる橋の上にあらそふものは月の影のみ 西行 『撰集抄』に西行にまつわる奇談がある。 西行が高野で修業していた頃、同じ聖の西住と月の夜には橋の上にてよく物語をする ことがあった。ところがその聖も京にのぼってしまった。西行は友を恋しく思うあま り、昔聞いた話を思い出すのであった。それは無人の荒野の闇に「鬼」があらわれ、 白骨化した死骸の骨を取りあつめ、ふたたび人間に復元するという秘儀のことである 。西行もその方法をなんとか聞き知っていたので、淋しさをまぎらわすために、荒野 に遺棄された白い人骨を発見すると、その骨を集めてつる草で結び、秘呪を行じて人 間に復元することに成功した。しかし、できばえが悪く、姿は人間に似ているが、色 もなく、心もなく、声もない。ついにはこわそうと思ったのだが、人間の形をしてい る以上、殺人のように思われ恐ろしくなって高野の奥に置き捨ててしまった。 京に出た西行は、人間を造りそこなったことへの疑念を晴らそうと、伏見中納言師仲 のもとへ出向く。そこで修業が足りないがゆえの反魂(はんごん)の秘術の際のあや まちや、中納言自身が造った人間が宮中には何人もいるということ、それを口外した ときは作者もろとも死に見舞われるということを聞かされ、さらにはこの反魂の秘術 さえも伝授されるのであった。 しかし西行はある日、自分と同じような人間が突然目の前に現れたときのことを思い 、急に不快になった。そして世に未練のあるこの心では、人を造る鬼の資格無しとお もい、その後は秘儀のことなどすっかり忘れてしまったのある。 人造りの秘儀
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