代インドのチャトランガが将棋、チェスの原形だとわかったのは、19世紀からめざましい発展をとげたオリエント学の成果です。

チャトランガは4人で行い、さいころを使って駒を動かすゲームなので、2人で遊ぶ将棋やチェスとはだいぶ形が違っています。しかしサンスクリット語の古い文献や、インドにかろうじて残る4人将棋の駒の名称から、チャトランガは将棋、チェスに先行する「原将棋」であることがわかりました。

ここでいう原将棋とは、駒の性能に差があり、それを動かし、組み合わせることで戦争を模して戦うゲームです。

チャトランガは古代インドの軍制を模して象隊、騎兵隊、戦車隊、歩兵隊から成っていました。王の駒は、はじめはありませんでした。遊び手自身が王の役割をしたからです。チャトランガでは、駒の動きがすでに「将棋らしさ」を備えています。日本将棋の王将と比べると、王は同じ、象は銀将、馬は8方向に桂馬飛び、歩兵は歩兵、戦車は飛車の動きです。桂馬の動きは、現在の世界の将棋に共通してあり、将棋というゲームをおもしろくしている要因ですが、桂馬の動きが、すでにチャトランガの時代に原形があったことががわかります。


<図>
  1. チャトランガで遊ぶ人のレリーフ(インド、バールフート、紀元前2〜3世紀)
  2. チャトランガに先行する遊戯盤と駒。モヘンジョダロ出土(レプリカ、増川宏一氏蔵)
  3. チャトランガの駒の原形をよく残す8世紀のアラブ駒(レプリカ、増川宏一氏蔵)