今昔百鬼拾遺 霧之巻

(国立国会図書館所蔵)

石燕曰く 余五将軍惟茂、紅葉がりの時山中にて鬼女にあひし事、謡曲にも 見へて皆人のしる所なれば、ここに贅せず。
解説 戸隠山には鬼がいて、ずいぶん古くから鬼退治の伝説が伝わっています。 その鬼が女であり、紅葉という名前で登場するのは近世に入ってからの ようです。現在流布している鬼女紅葉伝説は「北向山霊験記・戸隠山 鬼女紅葉退治之伝」(明治十九年)によるもので、実は明治時代以降の ようです。もっともその本の元になった言い伝えは、 江戸時代にはできあがっていたようで、享保九年(1724年) 「信府統記」には、平維茂が戸隠山の鬼を退治し、自分もその傷で 亡くなったと書かれています。また 、その鬼は紅葉という鬼であったとのことです。
謡曲「紅葉狩」では、紅葉狩の最中に戸隠山の鬼退治を命じられた平維茂が、 美女に誘われて酒宴に引き込まれますが、変化した鬼女を退治します。 石燕の説明にある余五将軍というのは、平維茂が平貞盛の十五番目の 養子だったからです。謡曲では「紅葉狩りに出てきた人間の女を 装った鬼」であったのが、時を経て「紅葉という名の鬼女 」に変貌したようです。
興味のある人は「日本妖怪異聞録」(小松和彦 小学館ライブラリ)を 一読されると良いでしょう。