今昔百鬼拾遺 雨之巻

(国立国会図書館所蔵)

石燕曰く 都良香らぜうもんを過て一句を吟じて曰、「気霽風梳新柳髪」と。 その時鬼神一句をつぎていはく、「氷消波洗旧苔鬚」と。後、渡辺 綱がために腕をきられ、からきめ見たるもこの鬼神にや。
解説 平安京の羅城門は二層からなる大きな楼門でしたが、石燕の説明に 言う渡辺綱に腕を斬られた鬼は茨木童子という名前で知られています。 その顛末は謡曲や絵巻物などに記されています。
源頼光の四天王の一人である渡辺綱が馬上羅城門の前を通り過ぎるとき、 若い女性が一人歩いていたので、馬に乗せて送っていくと、突然鬼の姿に なり綱の腕をつかみました。綱は間髪入れずに太刀を抜き、その手を 切り落としたところ、鬼は叫び声を残して去っていきました。
綱は鬼の腕を持ち帰って、どうしたものかと占いをさせたところ、 七日間の物忌みをして祟らないようにするとよいと言われ、その言葉通りに 門を閉め誰にも会わずに六日間を過ごしました。しかし、七日目に綱の 乳母の茨木が訪ねてきて、ぜひ会いたいと嘆き悲しみました。門を開けて 中に入れると、茨木は物忌みの理由を尋ねてきましたので、綱は鬼と会った 事情を説明し、その腕をみせました。すると茨木は「これぞ 我が腕!」と言うやいなや、腕をつかんで飛び去ったということです。