今昔百鬼拾遺 雲之巻

(国立国会図書館所蔵)

石燕曰く 史記の天官書にいはく、「海旁蜃気は楼台に象る」と云々。蜃とは大蛤なり。 海上に気をふきて、楼閣城市のかたちをなす。これを蜃気楼と名づく。 又海市とも云。
解説 蛤は潮干狩りでも親しい普通の食用の貝ですが、江戸時代までは 特異な能力を持つと思われていたようです。それは中国からの 影響でしょうか。「彙苑」には、「蛤は蜃ともいい、気を吐いて 空中に楼閣を映し出す。春秋の頃海中から此気を出すのである 」とあります。
蜃が蛤であるために蜃気楼も蛤が出すということになったようですが、 「大和本草」では、蜃という龍族のものが気を吐いて作るとしていま す。また、 蛤も気を吐いて楼台を映し出すが、龍族の蜃が吐くのとは異なるという 説もあります。
大蛤を車螯(わたりがい)ともいいまして、車螯が蜃であるという説も あります。「本草綱目」では、車螯のせいで、蜃気楼は夜に 現れるそうです。