今昔百鬼拾遺 雲之巻

(国立国会図書館所蔵)

石燕曰く むかし北国に翁あり。子孫のためにいささかの田地をかひ置て、 寒暑風雨をさけず、時々の耕作おこたらざりしに、この翁死してより その子酒にふけりて農業を事とせず。はてにはこの田地に他人に うりあたへければ、夜な夜な目の一つあるくろきものいでて、 「田かへせ田かへせ」とののしりけり。これを泥田坊といふとぞ。
解説 自分の田畑への執着が、死んだ後もこの世に残って妖怪に変化した ものです。他人のものとなった田畑に出て、「田を返せ、田を返せ」と わめき続けます。
図では、一つ目の黒い体で三本指です。阿部正路氏によると、 人間の五本の指は知恵と慈悲(美徳)、瞋恚と貧婪と愚痴(悪徳)とを 示すそうです。指が三本なのは、美徳を失って、悪徳だけで生きている 卑しい存在ということになるでしょうか?
田畑は減りましたが、バブルで土地への妄執を示した人たちは、 新たな妖怪になる要素が十分にあると言うことができるでしょう。