かつてユーラシア大陸全土を支配していた大モンゴル帝国は、 ウランバートルの東を流れるヘルレン川の中洲で大ホラル(集会)を重ねたと言う。 騎馬軍団は遊牧生活のノウハウから生まれた生活術や芸術的な騎馬技術と共に圧倒的軍事力で西洋を震撼せしめた。 地獄よりの使者、 として恐れられたモンゴル軍はただ、 そうだったのだろうか。
町を出る小高い丘には必ずと言っていいほどオボーと呼ばれる石積がある。 兵士達は村を離れ闘いに行く時、 1個の石を積んだという。 永い闘いの果てに生きて還った者は、 その1個の石を拾い上げて村へ持って帰った。 積み残された石の数はすなわち、 いまだ還らぬ、 又はもう還らぬ男の数なのだという。
かつて匈奴と呼ばれ、 殺戮を繰り返しただけという認識しかないモンゴル軍の一兵士も1つのロマンがあり、 今は草原の民としてあの時代のままに暮らしている。 そんな思いで旅立とう。
この日、 ラリーはハンガイ山脈へわけ入る。 ルートはかなりタフであり相当な忍耐が要求される。 常に3000m級の峠を越え、 ルートの平均高度は2500mにも達する。 しかし驚くべきことに、 ここを至上の棲家とする人々が居る。 天上の人々である。 このような高緯度の高地に人々が暮らすのは、 私が知る限りこの地をおいてないのではなかろうか。 彼らは貧しそうにも見える。 しかしそれは私たちが便利さが豊かさにほかならないという20世紀の(しかも後半の)価値観でしかものが見えないからそうなのである。 次の世紀の価値観ではどうなるか解ったものではない。
彼らは満天の星空と悠久の大地を愛し、 「遠く牛羊の群れを見る」を至上の幸福感としている。 あなたの価値観の変化さえ求められる。 はやりの言葉を用いればパラダイム・シフトであろうか。 しかしそんな言葉も宙を舞う苛烈で荘厳で美しい風景の中である。
ラリーはハンガイ山脈をあとにする。 広い谷沿いにひたすら南下すると大きな町に出会う。 ここまでのルートは名残惜しいとしか言いようのないほど美しい。 しかし相当にハードだろう。 標高3000m近い急な坂をかけあがり、 シベリアから続くタイガの裾を出て。 とにかくこの日ほど風景の変化に富む日もないだろう。
そして大平原へ降りてくると、 いきなり砂漠っぽくなり、 暑くなる。 一転ハイスピードピストでは全開走行さえ可能である。 これが昨年のラリーと同じかと思うほどマシンへのダメージはこれまでの3日間でははかりしれない。 自重して風景とナビゲーションに集中した者こそ最後の闘いの時を迎えられるだろう。 空と大地のはざまには、 あなたのマシンしか居ないに違いない。 至上の喜びを感じられた者にこそ勝利への招待状が送られるだろう。
アルタイ山脈を構成する山塊に挑む。3つの狭い岩の回廊と闘わなければならない。 ひとつめの回廊では、 車がやっと1台通れる程のものだ。 両側から岩がせまり、 路面はタイヤの能力を越えているだろう。
私たちはここで1人のトルコ系?の老人に会った。 岩を登りきったところはなんと美しい平原が広がっているではないか。 アルタイの険しい山々を天然の要害とする平原なのである。 老人は過去からの旅人のように思えた。 はるか遠きユーラシアの暗がりから1000年の時を旅してきているようだった。 それにしてもこのモンゴルの大地のなんと奥深きことか。 歴史を秘めて、 何もかも時の概念さえも失ってしまいそうではないか。
2つめの峡谷でこの平原を下りると少しだけ時の概念が戻ってくる。 3度目の峡谷は砂の中である。 谷を抜けきる前に右手の丘へ登るピストを見つけなければならない。 すると眼下に湖が広がる。 東へルートを取れば西日を背に自身の影を追いかければ美しく興奮の一日が暮れる。
この日をどう形容すればいいだろうか。 荒野に延びるピストは時に薄く、 遊牧の民の往来すら途絶えているのだろう。 ナビゲーションには神経質にならなければならない。 こんな見捨てられた大地にこそ多くの野生動物が見られる。
PC付近では月世界を思わせる風景が見られ、 深い砂の中をあえぐようなピストも用意されている。 南の正面に広がる岩山群はグレートゴビ・ナショナルパークで希少動物の保護エリアだ。 近づくと東へ進路を変える。黒い小石のピストはときに見失ってしまう。 大平原の正面に、 そしてやがて左手に見える小島のような山が目印となる。
南ゴビの中継地ダランザドガドのツーリストキャンプは草原に浮かんだオアシスのようである。
この日はトラックからのサポートが受けられない。
最終試走で私たちはホランという希少動物の姿を多く目撃した。 国際保護動物である。 白っぽい身体つきで馬より大きく精悍である。 何よりも気高く美しい。 ウランバートルに帰った私たちは環境省でそれはロバの亜種であると聞いて驚いた。
ミーティングの結果、 再びルートを変更する為に私たちは旅立った。 国際的に希少なホランの棲息地の中心を通るルートを変えよう、 ということになった。 大きく迂回するルートはやがてハイスピードなピストに出会い、 それでも様々な野生動物の姿を見かけながらキャンプを目指す。
ひょっとしたらあなたも遠くにホランの姿を見るだろう。 それはおそらく伝説の動物ユニコーンの姿のようだろう。
かつてパリ・ダカールがアルジェリアを通っていた時代。 毎年決まってホッガー山脈のアセクラムに登った。 そこにはミシュランの地図ではエルミタージュ・ド・フーコーと記されていた。 神々しい山々にフランス人牧師シャルル・ド・フーコーが隠棲していたという話を私は思い出した。
そのアフリカ、 サハラの中心にある情景が宗教の違いこそあれ、 ここでも見られる。 しかもここには中世から近世に栄えた町の遺跡が打ち捨てられている。 パッセージコントロールはこの遺跡の中に設けられている。 遺跡を見下ろすようにラマ教の小さな寺院がある。 少年僧が居た。 何故こんなところに、 という思いがした。 そしてフーコー牧師のエルミタージュの幻影を見たのだ。 何故なら、 その遺跡をあとに黒い岩山の中を進むルートの中で何らかの宗教的なインスピレーションが得られたからだ。
ゴビにあるデューン群のなかで今の我々のラリーが容易に立ち入れるもののひとつだ。 むしろ他は自然保護区になっているので入れないというのが正しいかもしれない。
ルートはひとまず草のまばらなピストで南下する。 ハイスピードだ。 そして南側からアプローチすることにした。 デューンへ向かう草地のCAP350°のナビゲーションに集中しなければならない。 目標となる小岩を見つけるのは容易ではないだろう。 そしてその小岩からCAPチェンジをし、台地から降りるポイントを発見するのは難しい。 やがて我々が立てた3mの紅白のバリース27本に導かれて少しラフなデューンを進む。 バリースから次のバリースが必ず見えるという保証はない。 しかもこの砂は早い速度で東へ動いている。 従ってゴビの低地を移動しているためにデューンの谷間に湿地があったり不思議な地形を作り出しているのである。
デューン群を抜けると泥地を突き切ってメインピストに乗る。 ナビゲーションの腕の見せ所でもあり、 デューンからの転落にも気を配らなければならないだろう。 デューンの中、 そして抜け出たところにPCが設けられている。
断っておくが私たちはモンゴルという国に遠く継がる民族としてこの国を愛している。 もちろんモンゴル人の気高く崇高な精神には畏敬の念さえ持っているといって良い。 先のエタップの章でも述べたが単に20世紀の価値観で数百年、 数千年を語るのは許されない。 但し、 この日あなたたちは近代国家間の傷跡を見るに違いない。
ラリーというスポーツのセンテンスから政治にまつわる話をしないようにしようと考えているのだが、 もうこれは歴史として語ることが出来るのではないかと思っている。 まわりくどく理解しがたい表現になってしまったが、 あなた自身の目に近代史の跡を焼き付けておいて欲しい。 それは崩壊の傷跡として20世紀を語る真の姿であるから。
この日、 ビクトリーランのために、 しかし単にそれだけではなく、 今回のこのラリーのサブ・テーマ−これは勝手に私が思っているだけだが−ハラホリンへ行く。 かつて世界征服を成し遂げた2代目ハーンのオゴタイがすすめられるままに建設した世界の中心地カラコルム(ハラホリン)コスモポリタンである。
しかし、 オゴタイは宮殿に棲まず草原のゲルに暮らした。 世界中から集められる税金、 財宝の数々を彼は無意味なものであると言い、 誰かれかまわずに喜捨したという。 「金品や財宝がどれほどのものであろう、 全ては無くなってしまう。 最も大切なものは後世に語られる名、 のみである」と。 しかし、 確実にこの地の今がその言を証明している。 オゴタイの後の時代に作られたエルデニズーという寺院の中に入って見る時間が少しあるだろう。
そしてこの日も西日をいっぱい背に受け、 歓喜のゴールの地ウランバートルへ向かうアスファルトロードを走る。 10日間、 ハードでタフな冒険の旅の余韻と、 またモンゴル帝国時代のタイムマシンの旅を終えて帰るあなたの姿を、 私たちはまぶしいから手をかざして見守るのだ。
Mongolia | Time | Internet ※東京スタッフ |
スタート MOTO AUTO ETAP撤去作業開始 ヘリ移動 ETAP設営 MOTOゴール AUTOゴール 暫定リザルト発表 プレスコンファレンス(23:45) 起床 朝食 ブリーフィング(5:30〜5:45) スタート |
6:00 7:00 8:00 9:00 10:00 11:00 12:00 13:00 14:00 15:00 16:00 17:00 18:00 19:00 20:00 21:00 22:00 23:00 24:00 1:00 2:00 3:00 4:00 5:00 6:00 7:00 |
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